お片づけチャレンジで目にとまった絵本。
もう長いこと、本棚の隅っこにあった。
何度も断捨離の波にさらされた私の本棚から、なぜかずっと出て行かなかった本だ。
なぜここに居るの・・・と改めて手に取ったら、猛烈に読みたくなった。
この本を買い求めた時、『盾』という言葉に惹かれたのだったと思う。
自分を守る盾。
漠然とした感覚ではあったけれど、それが何なのか、知りたかったのだ、きっと・・・。
【盾 SHIELD】のあらすじ
舞台はアジアの東の端にある島国。
時代は、明記されていないが、おそらく高度経済成長期。
コジマとキジマの小学生時代から、40代のオジサンになるまでを描いている。
家庭環境も性格も体格も正反対の二人は、不思議とうまがあう仲良しで、いつも愛犬と野山を駆け回って遊んでいた。
ある日二人は、名なしの老人に、「人には盾・シールドが必要だ」と言われる。
人の体の中心には、大切なものがある。
それがあるから、人はうれしさや悲しさを感じることができるのだ。
だが”それ”は、とてももろくて傷つきやすいので、カチカチに硬く縮んでしまわないように、守る盾が必要となる。
”それ”とは、おそらく心とか精神とか呼ばれるもの・・・と二人は解釈する。
でもそれを守る盾とは、いったい?
その答えが見つかった時、またここで会おうと二人は約束する。
その後、二人は全く違う道を歩む。
キジマは中学からボクシングを始め、練習に没頭するうちに、徐々に自信をつけていった。
成績も上がり、人気者になり、当時の花形企業の自動車工場に就職。
上司に気に入られ、紹介されたいい所のお嬢さんと結婚し、家も建てた。
子どもも生まれ、順当に出世し、順風満帆、怖い物なしだった。
会社の名刺を出せば、みんなが尊敬してくれる。
次第にキジマは、会社が自分の盾だと思うようになる。
一方コジマは、小学生時代の明るさを失い、どんどん諦めモードに入っていく。
勉強もスポーツもうまくいかず、親をがっかりさせているのではという想いが、ますますコジマを後ろ向きにさせる。
キジマと同じ自動車会社の就職試験を受けるが、不合格。
地元の印刷工場に就職するも、1ヶ月も続かず、家に引き込もるように。
自分はダメなヤツ・・・という黒い雲に絡め取られる。
25歳の時、犬の訓練所で働くようになる。
元々犬が好きなコジマは、躾の難しい犬とも根気よく向き合い、実績を重ねる。
ついにはドイツ語を勉強し、ドイツまで犬の買い付けに行くまでになった。
ドイツで出会った女性と結婚し、独立して、ふるさとに犬の訓練所を開く。
コジマは妻に言う、「俺の盾は、シェパードとドイツ語、そして君」だと。
その頃、キジマの会社は吸収合併されることになり、キジマは解雇。
だが大企業の営業一筋できたキジマは、プライドも高く、希望年収1500万などと言うものだから、次の仕事が見つからない。
これまでチヤホヤしてくれた周囲の人は、一斉に手のひらを返す。
受け入れられていたのは、キジマではなく、キジマの肩書きだったのだ。
貯金もなくなり、妻も実家に帰り、家も差し押さえられ、全てを失ったキジマは、ボロボロの風体でふるさとを訪ねる。
もう死のう・・・と思って、昔、よく遊んだ山に分け入ると、そこにコジマの犬の訓練所があった。
盾・シールドとは、何か?
私たちは普段、いろいろなやり方で、もろい自分を守っている。
盾は象徴。物理的な盾ではなく、守る手段の象徴だ。
大企業や官庁など、強い集団に属することも盾。
語学や技術を身に付けたり、資格を得たりして、自分に付加価値をつけることも盾。
学歴も盾。
出自も容姿も盾。
経済的に成功することも盾。
特権を握ることも盾。
男性優位社会で男性であることも盾になるだろうし、国籍も盾だ。
2006年に出版された本なので、考え方が古いな・・・と思う点もあるけれど、盾があれば安心するという心理は変わらない。
だから盾になるものを得ようと、人は必死になるのだろう。
Chikakoの感想
生きていれば、いいことも悪いこともある。
優しくしてくれる人もいれば、悪意を向けてくる人もいる。
生まれたての赤ん坊のように無防備ではいられない。
だが誰かに庇護してもらうのではなく、大人になったら自分の心は自分で守らないと。
盾にもいろいろあるけれど、最強の盾は自己肯定感だと私は思う。
誰がなんと言おうと、自分を信じているし、自分の価値は揺るがないという確固たる想い。
人に認めてもらったり、褒めてもらったりする必要などない。
勝ち組とか負け組とか、人の評価は関係ない。
自分が自分の最大の理解者であり、味方であることが、最も重要だから。
私がこれまでに獲得してきた盾で、社会的に一番有効だったのは英語力。
そして個人的に一番役に立ったのは、心理学かな。
英語力も心理学も有益だったが、結局はそれらを使って自己肯定感を育んできたに過ぎない。
大切な柔らかい心を守る自己肯定感という盾、大きく分厚く育てていきたい。
絵本だし、文章も平坦なので、小学校高学年でも読めるが、盾の意味を理解するには、ある程度の人生経験が必要だと思う。
予備知識として読んでおけば、ある日、突然、この意味が分かる日がくるかもしれない。
子どもだって、心を守る盾は必要だしね。
絵ははまのゆかさん。ほのぼのとして柔らかいタッチだ。
村上龍氏とはまのゆかさんは、13歳のハローワークでもタッグを組んだ。