タイムスリップというとSFだと想いがち。
だが本書はタイムスリップを扱いながら、それはきっかけに過ぎず、”人生をやりなおせるとしたら?”がテーマだ。
もし高校3年生に戻って、もう一度人生をやり直せるとしたら、貴方はどんな選択をする?
知子は専業主婦。夢は女優だったが、高校の同級生と結婚して、平凡な暮らしを営む。
夫とは会話もほとんどなく、長男は引きこもり。
薫はキャリアウーマン。難関大学から一流企業に入り、独身で頑張ってきた。
だが母はその頑張りを一度も認めてくれたことがない。
地元で結婚し子育てをしている妹たちを、すごいと褒めちぎり、薫を憐れむ。
晴美は、東京で一人暮らし。
コンビニとスーパー銭湯のパートをかけもちして、ギリギリの生活をしている。
もし高校の時、あの男にさえ会わなければ…。
同級生の3人は、47歳の時、東京の物産展で、偶然再会を果たす。
高校時代はさして親しくもなかったが、同郷の懐かしさで、飲みに行くことに。
居酒屋「遠来の客」には、不思議なしかけがあり、30年前、つまり高校3年生にタイムスリップできるという。
現在の生活に満足できず、こんなはずではなかった…と思っていた3人は、30年の時をさかのぼり、新たな人生をスタートするのだ。
ただ外見は18歳でも、中身は47歳だ。
47歳の知恵や人生経験を駆使して、望む人生を手に入れようとする。
知子は女優になり、薫は知子の元夫と結婚し、晴美は地元の大病院の奥様に収まる。
夢がかなって、めでたし、めでたし。
…と思いきや、憧れていた職業や生活の内実は、そんなに甘くなかった。
そして3人は再び思い始める。
こんなはずではなかった…と。
晴美がうつむいてつぶやく。
「私…もう疲れた…人生に。」
そのまま15年が経過。その年、遠来の客がオープンする。(30年前、この店は存在していない)
待ちかねた3人は、早速店に押しかけ、もう一度タイムスリップしたいと願い出る。
だが店員は静かに言う。
「人生をリセットできるのは2度までです。」
つまりこれがラストチャンス。
しかも今度は高校3年生ではなく、最初の人生の47歳地点に戻る。
ふたつの人生を生きてきて、どっちの人生にも不満はあった。
順風満帆なバラ色の人生なんて、なかったのだ。
さあ、どうしよう…。自分はどっちの自分として生きたいのだろうか。
3人は選択する。
そして選択の結果を今度はきっちり引き受ける。
二通りの人生から学んだことを、最終的に選択した人生に生かしていく。
隣の芝生は青く見えるだけで、本当はそれほど青くない。
ならばしっかり自分の足元を見て、現実を生きよう。
さて、もし戻れるとしたら、何歳の時に戻りたいかな…と考えてみた。
何歳の頃が一番幸せだったか…というのではなく、何歳からやりなおしたいかということ。
あの時、あの学校を選ばなければ、他の学部にしておけば、アメリカに永住していれば、結婚と同時に仕事を辞めなければ…等々、思う所は多々あるけれど。
あえて言うなら、今の知識と経験と成熟を駆使して子育てをやり直したら、もっともっと子どもたちにとっていい母親になれると思う。
子どもと目線をあわせ、しっかり気持ちを聴き、受け止め、一緒に考え、彼らの好奇心ややる気の芽をつむような真似はしない母親に。
やり直したいことがあるとしたら、やっぱりそこかな…。
で、どこにあるんだろう、「遠来の客」。(^^ゞ