数学で戦争を回避する。
…すでに動き始めた巨大な時代のうねりに、対抗する武器は数式と巻き尺。
そんなことができるのか?
そもそも数式で勝負ができるのか?
昭和8年、日本帝国の海軍省は、世界でも類を見ない巨大な戦艦・大和の建造をもくろんでいた。
これからの戦争は航空機が勝敗を分ける、よって必要なのは巨大戦艦ではなく、空母…と主張する山本五十六(舘ひろし)。
だが会議では、大臣と裏取引があるのか、大和建造派が優勢になる。
そこで山本は、巨大戦艦の建造費の見積もりが異常に低いことに眼を付け、そのからくりをあばこうとする。
白羽の矢を立てたのは、帝大を退学になった、数学の天才、櫂直(菅田将暉)。
しかし櫂は、無類の軍嫌い。
再三の誘いを断り続ける。
だが数学者ゆえに、日本が圧倒的な資源を持つ欧米列強に勝てないことを理解していて、このまま戦争になれば大切な人たちが戦火に飲まれることを想い、不本意ながら大和の正確な建造費を計算する仕事を請け負う。
ただし、相手側の妨害に遭い、戦艦の設計図はおろか、資材の価格すら分からない。
最初は櫂に反発していた田中少尉(柄本佑)とともに、ないない尽くしの中、たったの2週間で、船の構造を勉強し、設計図を自ら描き、大阪の商人(笑福亭鶴瓶)の協力を取り付け、建造費を割り出していく。
推進派と反対派の単純な対立ではなく、スパイがいたり、裏の裏があったり、ストーリーとしても、なかなか面白い。
推進派の造船担当将校が、巨大戦艦を建造する本当の狙いを明かすくだりや、山本五十六の真意が明かされるくだりは、マジですか?と思わず身を乗り出す。
結局、戦艦大和は建造され、計画からわずか12年後、あっけなく沈められる。
これは誰もが知っている歴史上の事実だ。
だが、大和を造ってはいけない…と知っていながら、加担せざるを得なくなる櫂の無念。
華やかな進水式で、一人涙する場面がとても印象的だ。
国の行く末を本当に考えている人、私腹を肥やしたい人、自分の力を誇示したい人、大切なことを適当に決める人…、今も昔も人間社会の構造は、あまり変わっていない。
美しいものは、なんであれ、測らないではいられない櫂直は、ちょっとこの人を連想させる。
菅田将暉君の鬼ちゃんもいいね。(^^ゞ