予告編を目にした時から、絶対見ると決めていた。
「あなたが結婚してくれていたらよかったのに」と切なげに言う松たか子。
お姉ちゃんのことが好きな男子に恋をした妹が、30年の時を経て、未消化の想いになんらかの決着をつける、ちょっと甘くて切ないラブストーリー…なんてのを、勝手に想像していた。
だが甘酸っぱいは甘酸っぱいが、コトはもっと複雑だった。
舞台は宮城県。
裕里(松たか子)の姉、未咲が亡くなった。
訃報を知らせるため出向いた姉の同窓会で、裕里は未咲に間違えられてしまう。
同席していたのは、かつての憧れの先輩、鏡史郎(福山雅治)。
話しかけてくる鏡史郎に、未咲のふりをして応対する裕里。
姉の死を伝えるどころではない。
そこから始まる文通。
だがちょっとした手違いで、鏡史郎の返信は裕里の実家へ行ってしまう。
実家には、高校生の鮎美(広瀬すず)と颯香(森七菜)がいる。
鮎美は未咲の娘で、母親にそっくり。
颯香は、裕里の娘。つまり鮎美の従妹だ。
母を亡くしたばかりの鮎美と、従妹をなんとか力づけたい颯香と、ボルゾイ(犬)。
鏡史郎の手紙を受け取った二人は、未咲になりすまして、返事を書く。
かくて始まった、ふたつの文通。
娘たちは、高校生の頃の未咲のことを知りたい。
裕里は、日々の何気ないことを話す相手が欲しい。
鏡史郎は、未咲の思い出を語り、未咲と繋がりたい。
手紙を通して、未咲と裕里と鏡史郎の高校時代が再現される。
それは本当にキラキラとした光に満ちた世界。
まさに青春(死語?)という言葉がふさわしい日々。
高校生の鏡史郎も、未咲に手紙を書く。
自分の想いを文章にして、未咲に届ける。
だが手紙は届いていなかった。
姉宛ての手紙を預かった裕里が、手紙を渡さなかったから。
それはなぜか…。
まあ、そこはお約束通りの理由である。
「先輩が好きです。」
「…ごめん、知らなかった…」
若さとピュアな恋心が、本当にまぶしい。
広瀬すずは母の未咲と娘の鮎美、森七菜は、高校時代の裕里と颯香の、それぞれ一人二役。
このフレッシュな少女たち + 神木隆之介。
画面がキラキラしないほうがおかしい。
30年前と今が交互に描かれる。
何度か手紙のやりとりがあった後、鏡史郎が裕里を訪ねてくる。
そこで明らかになる真実。
そして高校のあった町、未咲と裕里の実家があり、娘たちがいる町で、鏡史郎は鮎美と颯香に出逢う。
かつての初恋の相手とその妹に、瓜二つの少女たち。
でも自分は40代半ば。そう、あれから30年の月日が流れている。
あの頃、思い描いた夢は、…こんな大人になりたいと思った理想は、叶ったのだろうか。
未咲は卒業式で答辞を読んだ。
「夢を叶える人もいるでしょう。
夢を叶えられない人もいるでしょう。
でも私たちは、これからの人生で辛いことがあった時、必ずこの場所を思い出すと思うのです。」
高校時代の光に満ちた日々とは対照的に、30年後の世界は、暗めに描かれている。
その証拠に、福山雅治の役どころは、いつまでも過去の思い出にしがみついている、売れない小説家。
そのイケメンぶりを封印して、冴えないオーラを放つ。
未咲を横取りし、DVで苦しめ、自殺に追いやった阿藤に罵られても黙って耐える。
覇気のない、うらぶれたオジサンだ。
だが本当にうらぶれたオジサンがうらぶれたオジサンを演じるとただうらぶれるだけで救いがないが、福山雅治が演じるから、うらぶれ感の中にも美しさがある。
阿藤は豊川悦司。
みぽりんも出てるよ。(^^)/
私が美しいなぁと思ったのは、ラスト近く、未咲と裕里の実家から鏡史郎が帰る時。
二人の少女に見送られ、雨の中を歩いていく。
ふと振り向いて、二人を写真に収める。
夏の昼下がり。雨。ビニール傘。
濃い緑と白いガードレール。
白と水色のふんわりしたワンピースをまとった少女たち。
なんだか透明感があり、ふっといなくなってしまうような儚さに、目を奪われた。
…これは現実?妖精なんじゃないか、あの子たち?
未咲は、娘に遺書を残していた。
だが鮎美は、それを読むことができない。
鏡史郎の訪問後、鮎美は封筒を開けた。
…遺書は原稿用紙に書かれていた。