映画【線は、僕を描く】

映画化されるんだ…と、コンビニ店頭のポスターで知った。

それから封切を心待ちにしていた。

昨年暮れ、砥上裕將の原作を読んだ。

一言でいえば、若者の成長ストーリーなのだが、水墨画という馴染みのない芸術を通してのそれは、新鮮で美しかった。

絶対、観る!…そう思って、待っていた。

映画【線は、僕を描く】のストーリー

大学生の青山霜介(横浜流星)は、水墨画展示の設営アルバイトをしている時、作品の1枚に目が釘付けになる。

それは墨で描かれた椿の絵。

なぜこの絵は、こんなにも心に訴えかけてくるのか。

絵の前で棒立ちになった霜介に、水墨画の巨匠、篠田湖山(三浦友和)が声をかける。

「君、私の弟子にならない?」

湖山は水墨画の第一人者である。

教えを請う者はたくさんいるが、内弟子はほとんど取らず、実の孫の千瑛(清原果耶)ですら、ろくに教えてもらったことはない。

それなのにド素人の霜介になぜ?

最初は戸惑い、固辞していた霜介。

だが飄々とした湖山の押しに負け、「僕にできるんでしょうか」と言いつつ、筆を持ってみる。

墨をつけ、湖山のお手本に倣って、線を引いてみる。

そして…水墨画の面白さと奥深さに、たちまち引き込まれていく。

湖山宅のお手伝いさん・西山(江口洋介)がいい味を出している。

家事全般なんでもできて、料理はプロ級。

農家に卵や牛乳を買いに行ったり、漁師から直接魚を仕入れたり、食材にもこだわっている。

いつも爽やかに笑っている気さくな人物だが、実はそれは仮の姿。

本当は…、おっと、それは映画館で確かめてね。

全然偉そうじゃない湖山役の三浦友和も、実にナイスキャスティング。

霜介は先輩である千瑛の背中を追い、千瑛は霜介の感性を素直に認める。

切磋琢磨しながら筆を走らせ、成長していく二人の瑞々しさがまぶしい。

「先生は、ずっと僕に問いかけていました。自分に向きあえと。」

絵を描くことは、ただ紙に対象物を写し取っていくことではない。

自分の内面を見つめ、それを表現することなのだ。

向き合うことから逃げていては、生きた絵は描けない…。

冒頭に出てくる椿が、実は大切な伏線を担っている。

線は僕を描く
(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

Chikakoの感想

邦画は観ないの…と言う友人がいるけれど、どうしてかなぁと思う。

こんなに面白いのに。

邦画業界、すごく頑張ってると思うんだけど…。

映画館を後にする時、なにかしら元気になっている映画は、いい映画だと思う。

映画【僕は、線を描く】は、登場人物の心情に共鳴して涙が出そうになる場面もあるけれど、爽やかで前向きな気持ちになれる。

 

最初は気乗りしなかったが、だんだんと水墨画の世界にのめり込んでいく霜介。

ぼーっとしていた表情が、少しずつ生気を帯びてくる。

なにかに夢中になって打ち込んでいる姿は、老若男女を問わず美しいね。

頑張れ~~~と、スクリーンのこちら側で、思わず手に汗握ってしまった。😅

人の真摯さは胸を打つ。…たとえそれが映画の中の虚構であっても。

畳3枚ほどの大きな紙に、太い筆で豪快に絵を描くシーンが2回ある。

どちらも迫力満点で、飛び散る墨にさえドキドキするし、出来上がった水墨画もまた素晴らしい。

全部を描き切って、最後に鷹や竜に目を入れる時の緊張感がたまらない。

誰の作だろうと調べてみたが、水墨画監修が水墨画家の小林東雲さんということしか分からない。

ご本人の作かしら…。

エンドロール直前に、キャストの名前と水墨画のショットが流れるが、これがまたいいので、最後まで観てね。

砥上裕將の原作のブックレビュー

この記事を書いた人

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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