舞台は、長野の精神科病院。
一般社会に適応できない人々が入院している。
生死にかかわるような病を抱えているわけではない。
毎朝、投薬を受けてはいるが、寝たきりではなく、普通に歩けて、庭仕事や陶芸ができて、カラオケを歌える。
ほとんどが任意入院のため、望めばすぐに退院できるし、外出許可も簡単におりる。
ここにあるのは闘病ではなく、暮らしだ。
病院という集団の中で営まれる暮らし。
社会からはじき出されて、行き場のない人たちがひっそりと営む暮らし。
精神を病んでいる人の集団でも、外の社会と同じように、優しさやいたわりや思いやりと悪口や非難や暴力が共存している。
そんな閉じられた世界に、自分の居場所を見つけた人がいた。
死刑執行が失敗して、生き延びてしまった死刑囚、秀丸(笑福亭鶴瓶)。
幻聴の発作に悩まされるチュウさん(綾野剛)。
壮絶な虐待でボロボロになった由紀(小松菜奈)。
秀丸とチュウさんは、自分たちが散々傷ついてきた分、生きる気力を失った由紀を気にかけ、優しく受け入れる。
ともすれば傷ついた弱い者を排除していく一般社会。
でも排除された者に、生きる資格はないのだろうか…。
尊重されるべき人権はないのだろうか…。
外の人たちは、彼らを”おかしい人”として扱う。
確かに精神が不安定ではあるのだけれど、彼らにも豊かな感情があり、苦しみや悲しみから立ち上がろうとする意志がある。
だが外の人には、それを認めてもらえない。
「無理よ」と一蹴されてしまう。
家族の頭数にも入れてもらえない。
ある日、この閉じられた世界で、大きな事件が起こる。
病院の職員でさえ、事件の本当の理由に気づいていないのに、当事者のことをまるで理解していない司法の場で裁判が始まる。
事件の動機は愛なのに…。
一人を除いて誰も知らない。
そしてその一人も、誰かをかばって口をつぐむ。
傷つきやすい人たちが、必死でつなぐ愛の連鎖だ。
タイトルからも分かるように、楽しい映画ではない。
人権や虐待や社会的弱者など、重いテーマを扱っているのだから、ルンルンした気持ちで映画館を後にすることはないと思う。
できればレイトナイトではなく、昼間に観る方がいいかな。
だけど、私は最後のシーン、車いすから立ち上がろうと試みる秀丸に、弱い人間のとてつもない強さを感じた。
「あなたは私に生きる力をくれました。だから私はあなたにも、生きてほしいのです。」
イケメン綾野剛さんの暴れるシーンは度肝を抜かれるし、鶴瓶さんはますます円熟味を増し、フレッシュな小松菜奈さんの体当たり演技は将来が楽しみと言わざるを得ない。
看護師役の小林聡美さんが、いい味を出しているので、要チェック。