予告編を見た時、なんか地味な映画だなぁ…と思った。
時代が戦前で、劇中で扱う映画も白黒…と、あまり色彩がないからだろうか。
だ・が!
予想に反して、かなり面白かった。
何度も手を叩いて、声を出して笑ってしまった。(お客さんの少ないレイトナイトだったので許して…)
ギャグとかダジャレではなく、人間のかもしだす可笑しさがそこここに散りばめられている。
あえてカテゴライズするならば、私はコメディに入れるかなぁ。
その昔、映画が活動写真と呼ばれていた頃、それは無音のフィルムだった。
お客さんは、スクリーンに映し出される役者の動きを、ただ目で追うだけ。
でもそれでは、ストーリーがまるでわからない。
そこで登場するのが弁士という職業。
活動写真にあわせて、セリフやト書きを語るのだ。
登場人物によって声色を使い分け、時には独自の解釈も加え、音響設備もない小屋で、自分の声ひとつを武器に、朗々と語りあげる。
弁士によって、同じ活動写真が、悲劇にも喜劇にもなりえるのが面白いところ。
人気の弁士には、たくさんのファンがつき、お客さんの入りにも大きく影響する。
活動写真が大好きで、活動写真が好きな梅子ちゃんのことも大好きで、将来は弁士になりたいと夢見る少年がいた。
だが現実はままならず、騙されて偽弁士として泥棒グループの片棒をかつぐことになってしまう。
それが染谷俊太郎(成田凌)。
なんとか悪い奴らから逃れ、とある街の映画館・青木館にたどり着く。
住み込みで働きながら、人気弁士の活躍を目の当たりにする染谷。
今度こそ、本物の弁士になりたいと思いながら、雑用に精を出す。
その街にはヤクザが経営するライバル映画館があり、染谷が抜け出した泥棒グループの頭・安田(音尾琢磨)は、その一味。
染谷のせいで逮捕されたことと、大金を持ち逃げされたことを恨む安田は、虎視眈々と逆襲の機会を狙っている。
活動写真を愛する人たちと、商売としか思っていない人たち。
私も映画が大好きだから、人気弁士を引き抜かれ、裏工作をしかけられ、なおかつ大切なフィルムを滅茶苦茶にされ、形勢不利な青木館に肩入れしてしまう。
青木館のしっかり者の女将と気の弱い主人を、渡辺えりと竹中直人が好演している。
竹中直人は、ペコペコする情けない役をやらせると、右に出る者がいないなぁ。
そして主演の成田凌も、やっぱりちょっと情けない表情が、よく似合っていた。
彼が大真面目な顔で巻き起こす騒動が、こんなに可笑しいのは、やはりコメディのセンスがあるからなのだと思う。
逃げ恥にちょい役で出ていた頃とは、かなりイメージが変わった。
安田とその一味を追っている刑事の木村(竹野内豊)もまた、本当に犯人逮捕できるのか…と思わせる頼りなさが、なんともいい味を出している。
目の前に偽弁士だった染谷がいるのに、彼の喋りに感動しちゃって、全然気づいていないし。(^^ゞ
だが最終的には、執念の追跡で刑事の面目躍如を果たす。(…ほっ)
なんだか銭形警部みたいだ。
監督はShall we dance?の周防正行氏。
エンドロールに奥様の草刈民代さんの名前が出てきたが、出演シーンが私にはわからなかった。
草刈さんを探しながら、鑑賞するのもいいかもしれない。
エンディングの奥田民生さんの歌も、ノリノリで楽しい。
カツベン!は、CGもカーチェイスも世紀の大恋愛もメカもミステリーもないけれど、全然地味じゃなかった…。
ああ面白かった、また明日から頑張ろーーーという気持ちにさせる、良作だと思う。