映画【糸】 小松菜奈・菅田将暉のダブル主演 巡り会いとすれ違いの果てに

映画館に行ったのは何ヶ月ぶりだろう。

アマゾンプライムもいいのだが、私は映画館で観る映画が好きだ。

上映時間の2時間あまり、なににも邪魔されず集中できるし、なによりあの大画面と大音響の迫力が好きだから。

月に1~2本観ていた私が、5ヶ月も自粛できたのは、頑張ったほうだと思う。

現在の映画館は、手指の消毒と体温チェックが徹底され、座席も一人置きにしか座れないし、換気システムも整っている。

お客さんも少なく、危ない…とは感じなかったけれど、これはあくまでも個人の感想。

糸のストーリー

中島みゆきの名曲「糸」をモチーフにしている。

平成元年に生まれた葵と漣。

13歳の時に出逢い、初めての恋をする。

だがある日、突然姿を消す葵。

必死で葵を探し当てた漣が目にしたのは、養父に殴られて顔にアザを作った葵だった。

母親は葵を助けようともしない。

「葵ちゃんは僕が守る」。

漣は葵を連れて逃げるが、すぐに警察に保護される。

どんなに相手を想っていても、しょせんは中学生。

なんの力もないのだ。

引き離された二人は、20歳の時、友人の結婚式で再会する。

大人になった漣は美瑛のチーズ工場で働き、葵は東京の大学に通っていた。

だが葵は投資会社の社長と同棲中。

再びはなれてしまう二人の縁。

その後、幾たびも出逢っては手を離し、すぐそばにいながらすれ違い、…平成という時代が終わる。

いったいこの旅にどんな結末が用意されているのか。

二人の糸が再び結びあうことはあるのか。

糸
(C)2020映画「糸」製作委員会

キャストが秀逸

中学生時代は子役が演じるが、大人になってからの葵は小松菜奈。漣は菅田将暉。

小松菜奈は閉鎖病棟の時から注目している女優さん。

恋なのか援助交際なのか、投資会社社長とのあやうい関係性。

だがその社長が失脚した時、沖縄まで追いかけて、今度は私が貴方を守る…と強靱な一面を見せる。

シンガポールに渡ってからの努力と活躍と成功と裏切りと失脚。

波瀾万丈な日々に、したたかに向き合う女性を演じる。

全てを失った夜、屋台村の日本食堂で、まずい…と言いながら、カツ丼をかき込むシーンが印象的。

あの透明の涙の美しいことといったら。

糸
(C)2020映画「糸」製作委員会

菅田将暉は、なんか痩せたのかな?

最初から少しやつれた感じで登場する。

ソフトバンクCMの鬼ちゃんと同一人物とは、とても思えないシリアスさ。

絞り出すように叫ぶ、「葵ちゃん!」。

出会う度に、何事もなかったかのようにかける、「大丈夫?」。

中学生の頃、漣は自分の無力さに打ちのめされた。

それから、何かを諦めたように生きてきた。

葵を諦め、なんとなく付き合った香とやがて結婚するが、彼女はガンで死んでしまう。

喪服姿で幼い娘の手を握る、そのよるべない姿が胸を打つ。

せっかく幸せをつかみかけたのに、なんでこんなことが、起こるの…?

糸
(C)2020映画「糸」製作委員会

漣の中学からの友人は成田凌、投資会社社長は斎藤工、香は榮倉奈々と、なかなか豪華な顔ぶれだ。

ちょい役だと思った倍賞美津子が、後半見事に伏線を回収する。

名曲・糸の深さ

シンプルなラブストーリーではなく、いくつもの人生の糸が交差する。

そこで結びあう糸もあれば、また離れていく糸もある。

IT長者、バブル崩壊、震災、復興、令和への移行と、平成の30年に沿って進む物語。

要所要所で、「糸」が流れるが、これが実に効果的で、胸に迫る。

『なぜめぐり逢うのかを

私たちはなにも知らない

いつめぐり逢うのかを

私たちはいつも知らない

どこにいたの 生きていたの

遠い空の下 二つの物語

縦の糸はあなた 横の糸は私

織りなす布は いつか誰かを

暖めうるかもしれない』

【糸】作詞作曲:中島みゆき

今、別々の場所で、別々の人生を生きている愛しいあなた…。

めぐり逢えることが、どれほどの奇跡で、どれほどの幸せなのか…。

二人の出逢いが、何を生み出すのか、何を伝えるのか…。

この詩の深さが、じんわりと沁みてくる。

糸

泣いている人がいたら、抱きしめてあげるのよ

漣の妻・香は、死期が迫っていることを知り、娘に語りかける。

「泣いている人がいたら、抱きしめてあげるのよ。」

幼い娘の心に、まっすぐに届き、芽吹く種。

幼女は、香の葬式で泣き崩れる祖父母をそっと抱きしめる。

また「帰る場所なんて、ないと思っていた」と泣く葵の背中を抱きしめる。

香の肉体は無くなったけれど、その言葉や想いがしっかりと受け継がれていく。

これも…糸。

いつか誰かを暖めうるかもしれない糸。

糸
(C)2020映画「糸」製作委員会

公開延期を経て

当初、糸は5月下旬に封切り予定だった。

だがコロナの流行で、公開延期に追い込まれた。

確かに予定通りに公開しても、誰も映画館に行けなかっただろう。

これほどの愛とパワーを秘めた映画、ぜひたくさんの人に観てほしい。

いろいろあるけど、明日も頑張ろう…と、思える作品だから。

昨日からずっと糸を口ずさんでる…。(^^ゞ

この記事を書いた人

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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