胸きゅん…という言葉が、一番しっくりくるかもしれない。
こんなにも甘酸っぱくて切ない感覚を、ついぞ忘れていた。
映画館の予告で、観たいな~~と思っていたが、上映期間中に足を運ぶことができず、そのままになっていた映画「今夜、ロマンス劇場で」を、ネット配信で鑑賞。
ちょっと陳腐な言い方だが、胸がキュンキュンしてしまった。
あり得ない設定のあり得ない恋、そして結末。
色鮮やかな二人の時間、一度は手放そうとしたのに諦めきれず…、そして流れる穏やかな日々。
2時間のファンタジーに迷い込んだような気がした。
舞台は昭和、高度成長期の頃だろうか。
映画監督を夢見る青年・健司(坂口健太郎)。
行きつけの映画館の映写室で古いフィルムを見つける。
再生してみると、なんともお粗末なB級映画。
設定も登場人物もストーリーも支離滅裂だ。
だが健司は、スクリーンに映し出されるお姫様に心を奪われてしまう。
人々に忘れ去られた映画を、毎日見ていた健司に、ある日、奇跡が起こる。
映画の中のお姫様・美雪が、突然、目の前に現れたのだ。
美雪は健司を「おい、しもべ!」と呼び、お姫様のように振る舞う。
モノクロの世界しか知らない美雪に、健司はカラフルな世界を案内する。
横暴な美雪に振り回され衝突もするが、やがて二人は惹かれあっていく。
だが美雪には秘密があった。
人のぬくもりに触れると彼女は消えてしまうのだ。
それが健司のいる現実世界に来るための代償だった。
…キスすることはおろか、手をつなぐこともできない二人。
そんな時、美雪は、映画会社の社長令嬢が、健司に思いをよせていることを知る。
好きだから触れたい、…でも触れられない。
2人はこの現実にどう向き合い、どんな答えを出すのか。
とにかく映像が美しい。
緑の中に赤い傘とか、ピンクの中の黒とか、モノクロとカラーの世界の対比を際立たせる意図があるのなら、大成功だ。
そしてキャスティングがいい。
横柄で傍若無人な美雪、一緒にいたらイライラするタイプだが、なぜか憎めないのは、綾瀬はるかがとてつもなくチャーミングだからだろう。
透明感があって、コミカルで、大きな目が言葉以上に語りかけてくる。
さよならを告げようとする時の、素直で愛にあふれた表情といったら!
消えてしまうと分かっていても、どうして触れずにいられようか。
坂口健太郎は、こういうお人好しの役がよく合っていると思う。
陰のある人物や、ほとんど笑わないストイックな人物よりも、要領が悪くて、人に振り回されやすく、でもそれを受け入れてしまう優しい人が、ぴったりはまる。
照れたような笑顔が、すごく魅力的なのは、星野源に通じるところもあるような…。
二人が浜辺を歩くシーン。
前を行く年配のカップルが手をつないでいる。
あんな風に、手をつないで歩きたいな…、でもそれはできないんだ。
健司がそっとタオル(…のような物)を出して、その両端を二人で握って歩く。
直接触れ合えないけれど、せめて物を介して繋がっていたい…。
切なすぎて、目が潤む。
物語の終わり方は書かないことにする。
このエンディングをハッピーエンドと解釈するかどうかは、観る人に委ねられていると思うから。