宮崎で活躍する精神科医の究先生が、SNSで紹介してくれたのが本作。
私はこの映画のことを全然知らなかったのだが、元々はNHKの4話連続ドラマだった。
心の傷を癒やす・・・は、まさに私がテーマとしていること。
劇場を調べたら、シネモンド金沢という単館映画館で、ちょうど上映中だった。
【心の傷を癒やすということ】のあらすじ
プレビューを観た時、神戸・淡路大震災で受けたトラウマにどう向き合うか・・・そんなストーリーだと思った。
が、さにあらず。
震災は扱うが、もっと広範囲に心の傷を捉えていた。
安和隆(柄本佑)は、在日韓国人。
日本で生まれ育ち、日本の教育を受け、中身はまんま日本人なのに、日本でも韓国でも、自分の居場所がないと感じている。
10代の多感な頃に、自己のアイデンティティで悩むが、精神科医の永野良夫(近藤正臣)の著書に感銘を受け、医学部に進学。
その後、神戸で精神科医となる。
今から30年ほど前のことで、当時、心のケアは、とても軽んじられていた。(そんな言葉すらなかったかも)
男が一生をかける仕事として、それはないだろう・・・みたいな。
ビジネスで成功すること、社会の役に立つことが、男の生き方だと信じて疑わない父親は、和隆の仕事を認めない。
同じく在日の終子と出逢い、やがて結婚。二人の子どもに恵まれる。
精神科医としての評価も得て、30代で医局長になり、平和に日々の暮らしを営んでいた。
そんな時に襲った阪神・淡路大震災。
人々の暮らしは根底から覆され、神戸は無残な姿に。
病院には瀕死のけが人が次々担ぎ込まれるが、精神科の和隆に出番はなかった。
なにもできない・・・と心苦しく思う日々。
避難所に出向き、お話聞かせてください、困っていることはありませんか、眠れていますか?・・・と話しかけても、「精神科の世話になったら、人様になんて思われるか」と、人々は拒絶する。
だけどみんな心に大きな傷を負っていた。
地震の恐怖、未来への不安、自分だけ生き残ったことへの罪悪感。
大人も子どももみんな激しく傷ついていたのだ。
和隆は、避難所の保健室に居場所を得て、人々の心に寄り添っていく。
(画像は公式HPより)
人は傷つきやすい
人の心は、とても傷つきやすい。
心の傷やダメージの深刻さは、外からはなかなか見えない。
とても繊細で複雑な心というものは、誰にとっても大切なのに、後回しにされ、置き去りにされる。
人は心が傷つくと、内に閉じこもりがちになる。
まるで傷ついた動物が、森の中でひっそり体を丸めるように。
だけど閉じこもったままでは、ダメなのだ。
悲しみや孤独が心身の隅々までいきわたるのを、黙って見過ごしてはいけない。
・・・心が壊れてしまうから。
そしていったん壊れてしまうと、回復がとても難しいから。
体の傷に対処するようなわけには、いかない。
ひとりひとり違う心に、万能薬はないのだ。
丁寧に丁寧に、痛みを引き出し、吐き出させ、昇華させる、気の遠くなるような長い道。
和隆は、穏やかに、気長に、傷ついた心たちに向き合っていく。
「人間は傷つきやすい。
傷ついた人が、心を癒やすことのできる社会を選ぶのか。
傷ついた人を、切り捨てていく厳しい社会を選ぶのか。」
実在の人物
劇中の安和隆は、実在の精神科医・安克昌さんがモデル。
臨床報告としてまとめた安さんの著書「心の傷を癒すということ〜神戸…365日〜」は、サントリー学芸賞を受賞している。
優しい気持ちになれる
震災を扱いながらも、穏やかで優しい映画だった。
人と人との繋がりや、相手を大事に想う気持ちが、丁寧に描かれている。
和隆と高校時代からの親友・湯浅(濱田岳)は、ジャズ仲間。
若くして癌を発症した和隆を、湯浅はジャズコンサートに連れ出そうとする。
だがホールを目の前にして、和隆は具合が悪くなって、会場に入れない。
「せっかくいい席が取れたんだから、お前だけでも聴いてこいよ。」・・・と和隆。
湯浅はふっと笑って、和隆の隣にしゃがみ込み、体をスイングさせ始める。
「お前の横以上に、いい席なんて、あるかい。」
全編がこんな優しさに満ちている。
和隆は言う。
心のケアって、なにか分かった。
誰もひとりぼっちにさせへんことや。
心にじわっと沁みる。
とてもいい映画なのに上映館が少なく、お客さんもまばらだったのは、残念でならない。
テレビドラマ版は、NHKオンデマンドで視聴できるので、是非、是非、是非!