家族って、なんだろう・・・と考えさせられた。
血縁が家族の条件なんだろうか?
映画【そして、バトンは渡された】のストーリー
高校3年生の森宮優子(永野芽郁)は、父親の森宮(田中圭)と二人暮らし。
優子は父親を”森宮さん”と呼び、森宮はかいがいしく優子の世話を焼く。
「だって父親だから」が森宮の口癖。
優子の目下の悩みは、卒業式のクラス合唱のピアノ伴奏がなかなか上手くならないこと。
森宮は、新たにピアノを買おうとしたり、伴奏にあわせて一緒に歌ったり、影に日向に優子を励ます。
料理上手でもあり、優子になにを食べさせようか・・・といつも心を砕いている。
だが優子と森宮に血の繋がりはない。
実は優子には、3人の父親と2人の母親がいる。
複雑な事情を抱えながらも、大丈夫、大丈夫といつも笑顔で乗り切ろうとする優子。
3人の父親は、全員梨花(石原さとみ)と繋がっている。
物語は梨花と幼いみぃたん(稲垣来泉)のエピソードと、優子と森宮のエピソードを行ったり来たりしながら展開する。
梨花とみぃたんにも血縁はない。
みぃたんは、水戸(大森南朋)の連れ子だった。
仲睦まじく暮らしていた3人だが、夢を追ってブラジルに行くという水戸に、梨花は一緒に行かないと告げる。
そして友達と別れたくなかったみぃたんは、梨花と日本に残る。
ちょっと不思議な展開だが、梨花はみぃたんをとても可愛がっており、みぃたんも梨花を本当の母以上に慕っていた。
ある日、みぃたんが友達の影響で、ピアノを習いたいと言い出す。
お金がなくて、カツカツの生活をしてる梨花に、ピアノを習わせる経済力はない。
梨花の結論は、婚活!
美貌の梨花は、大邸宅に住み、もちろんグランドピアノを所有する泉ヶ原(市村正親)をゲット。
ずいぶんと年が離れているが、泉ヶ原はお手伝いさんのいる豪勢な暮らしに、ピアノの個人レッスンを与えてくれた。
だがやがて梨花は、こんな生活はつまらない・・・と、ふいとどこかに行ってしまう。
帰ってきた時には、もっと若い男との結婚を決めていた。
その奔放さと我が儘ぶりにあっけに取られるが、映画の終盤でその理由が一気に分かってくる。
梨花とみぃたんに、優子と森宮がどう関わってくるのかは、観てのお楽しみ。
どこもかしこも愛情だらけ
優子の実の父親も、血縁はないが縁あって親子になった2人の父親も、優子に惜しみない愛情を注ぐ。
梨花の我が儘ともいえる行動も、全部受け入れてしまう・・・、優子のために。
血が繋がった実の子ですら愛せない人がたくさんいる中、どうしたらこんな人類愛みたいな大きな愛情を注げるのだろうと、全編を通して思わされる。
優子と森宮の日常が一番多く描かれるが、衣食住の提供から心のケアまで、森宮は本当にかいがいしく動く。
職場ではちょっとうだつの上がらない感じだが、父親としては満点パパだ。
お人好し全開の父親役が、また田中圭によく似合っている。
泉ヶ原にしても、なんのメリットもないのに、ずっと優子を見守っている。
外から見れば、若い妻に利用されてお金をむしり取られた初老の男だが、彼にとってそんなことはどうでもいいことだった。
愛情をかける対象がいる、それだけで嬉しかったのだ。
実の父親ともやがて再会を果たすが、父親もその再婚相手も実に穏やかで優しい。
複雑な家庭環境で育った可哀想なはずの優子は、実はたくさんの人の愛情をいっぱい受けて育った娘だったのだ。
優子を演じる永野芽郁の透明感のある瑞々しさが、目を惹きつける。
(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会
Chikakoの感想
私は瀬尾まい子さんの原作も読んでいるが、本とは少し印象が違った。
これは映像化に成功した作品だと思う。
そして親子とはなんだろう・・・と考えさせられる。
血縁を重視するのか、相手を想う気持ちを重視するのか。
子どもが誕生した瞬間に、”はい親子です!”となるわけではない。
授乳をして、排泄の世話をして、入浴をさせて、寝かしつけて、外遊びをさせて、言葉を教えて・・・、昼も夜も一緒に過ごし、途方もない時間と労力をかけて子の世話をすることで、親子の関係性は育っていく。
そこに血の繋がりがなかったら?
親子は、家族は、成立しないのだろうか。
子どもが自分に似てくれば、やはりそこに愛しさを感じるだろうが、それだけでは親子の情感は生まれない。
他の人間関係と同じで、親子関係もまた共に育んでいくものなのだろう。
欠点もいっぱいあって完璧ではない人間たちが、それでもその精一杯の優しさと愛情を相手に注ごうとする、これはそんな映画だ。
いわば魂のご縁・・・。
愛情のバトンが次、また次と受け渡されていく、とても優しくて切ない世界だった。
原作はこちら。