”でーれー”とは、岡山弁ですごいとかたくさんとかいう意味。
この物語は、現在と30年前の岡山を行ったり来たりする。
白鷺女学院に東京から転校してきた佐々岡鮎子は、はやくクラスに馴染みたくて、覚えたてのでーれーを連発する。
だが方言を甘く見てはいけない。
その土地に根付き、そこで生まれ育った人の間で、呼吸のような自然さで使われてきた言葉。
昨日や今日やってきた新参者が下手に使うと、取ってつけた感が半端ないのだ。
女子高生がそれを見逃してくれるわけがない。
鮎子はたちまち”でーれー佐々岡”という有難くないあだ名で呼ばれ、ちょっと浮いた存在になる。
そんな鮎子にできた友達。茶色がかったふわふわの髪の美少女、武美。
きっかけは、鮎子が中学の頃から描き続けていたマンガだった。
「ヒデホとアユの物語」。
なかよしやりぼんの世界観、そのまんまのラブストーリーだ。
ヒデホ君は神戸大学の3年生。ハーフなので金髪碧眼で、素肌に革ジャンと黒のスリムジーンズ。750ccのバイクにまたがり、バンドでギターも弾く。もちろん超モテモテ。
いるわけないだろ、そんな奴…なヒデホ君は、主人公だから可愛く描かれてはいるが、どこといって特徴のない、ドジで間抜けなアユを心から愛していて、ほかの女には目もくれない。
いつも優しく甘い言葉で、アユを励まし、力づける。
もう!書いてるだけで恥ずかしくなる…、そんな王子様に憧れる、まだ恋に恋する女子高生たち。
ヒデホ君は架空の人物だが、物語のモデルは自分と彼氏だと二人の会話やデートを熱く語るアユ。
あまりにもリアルなアユの話に、武美は会ったこともない2次元の相手に、恋してしまう。
武美がどんどん真剣になるので、これはまずいと気づいた後も、ヒデホ君はいない…と言いだせなくなるアユ。
そんなアユの前に、生きた本物のボーイフレンドが現れ…。
大人になった今なら、バカだよね…と笑える。
だけど大人になる少し前、甘酸っぱい夢を見て、現実とたくましい妄想がごっちゃになってしまうこと、誰にでもあったんじゃないかな?
思い出すだけでも赤面してしまう、ご都合主義な夢だけど。
でーれーガールズは、そんな時代を思い出させてくれる。
とっくに忘却の彼方に押しやっていたけれど、あったなぁ…そんなバカバカしくも美しい日々。
…そういえば私も描いていた、頭の中お花畑のマンガ。
封印したい、禍々しいけれど、ちょっと懐かしい過去だ。
でも、ああ、あんな日々があったな…と、時々振り返ってみるのもいいかもしれない。