旅屋おかえり・原田マハ著 コメディタッチで描く、赦すことの美しさ

原田マハさんの作品には、2種類ある。

めちゃめちゃシリアスで真面目な小説と、軽くてお茶目で愉しい小説。

シリアスな方は、美術関係の話が多い。

キュレーターの経験を元に、絵画に隠された謎や、真贋をかけた駆け引きなどを描いている。

軽くてお茶目なほうは、ノリがいい。

まずセリフが今風(今風という言い方がすでに死語😅)。

テンポ良くポンポン飛び交うセリフは、まるで掛け合い漫才のよう。

そして登場人物が多少ずっこけている。

愛すべきお茶目さんだ。

・・・だからといって、ただのドタバタではない。

ほろりとしたり、きゅんとしたり、ハートウォーミングなエピソードに、毎回、やられてしまう。

本書【旅屋おかえり】は、間違いなく後者。

旅屋おかえりのストーリー

鳴かず飛ばずのアイドル丘えりか、通称おかえりも、三十路を越えた。

芸能界ではもう後がない、がけっぷちタレントだ。

現在の仕事は、『ちょびっ旅』という30分のシリーズ番組1本のみ。

日本全国に出かけていって、名所や名物を紹介する旅番組だ。

予算も少なく、スタッフも必要最低限。

それでも旅が大好きなおかえりは、『ちょびっ旅』を楽しんでいた。

ところが!

あろうことか、番組内で間違ったスポンサー名を連呼してしまう。

それがチェックを素通りして、オンエアされてしまったから、さあ、大変。

スポンサーは激怒し、番組は打ち切りになった。

仕事を失って途方に暮れるおかえりに、ある日、奇妙な依頼が舞い込む。

難病で苦しむ娘の代わりに、旅をしてほしい・・・。

ALSを患う真与は、すでに生きることを諦めている。

呼吸困難に陥っても、人工呼吸器はつけないと宣言し、説得に応じない。

そんな彼女には、ひとつ心残りがあった。

それは家族で訪れた角館で満開の桜を見られなかったこと。

それがきっかけで父親との間に溝ができてしまった。

だから私の代わりに、青空に映える桜を見てきて。

その様子をビデオに収めて、私に見せて、おかえりさん。

自分で行かない旅に意味があるのか?・・・と疑問も湧いたが、おかえりは真与の代役で、角館へ向かう。

それなのに、土砂降り!

しかも5月だというのに、雪が!

当初の計画は狂いに狂ったが、角館や玉肌温泉の風景や出会う人たちをカメラに収める。

果たして成果物の映像は、真与に喜んでもらえるのか?

北陸大学の桜

これがおかえりの旅屋としての初仕事。

自分で出向けない依頼人に代わって旅をする。

ああ、なるほど、こうやっておかえりが旅をするエピソードがいくつか続くんだな。

・・・と思ったら違っていた。

真与のための旅から、場面はいきなり旅屋の仕事を20件くらいこなしたところへ。

新たな依頼主は、なんと、『ちょびっ旅』から手を引いたスポンサー企業の会長だった。

目的地は愛媛県喜多郡内子町。

会長は曰くありそうな袱紗を差し出し、ある人の墓前で、これを開けろと言う。

成果物は、空の袱紗。

成功報酬は、『ちょびっ旅』の復活。

不思議な依頼に、訳も分からず愛媛へ飛ぶおかえり。

そこで出会ったのは・・・。

キラリと光るギャグのセンス

原田マハさん、この作品を書いている時、きっと愉しかったことと思う。

ああ~~、いい、それ!・・・と私のツボに刺さる表現がいっぱい。

そう、私も面白い言葉遣い、ユーモアたっぷりの描写、笑わせる文章が大好き。

たとえば、事務所の社長の四角いはげ頭がこっちを向いていたとか、紙すきのヤンさんは日本語が流ちょうすぎて、外国人の着ぐるみを着た日本人じゃないのかとか、のんのさんが豊満な肉体を一張羅のドレスに押し込んだ様は、まるで紫色のボンレスハム、芸人(社長)とボンレスハムとお受験ママ(おかえり)の一行・・・だとか。

悪口じゃない、見下しているわけでもない、愛を持って絶妙なさじ加減でいじっている。

この軽妙さがたまらない。

Chikakoの感想

やはりクライマックスは、お墓参りのシーンだろう。

おかえりが知らなかった事務所の社長の過去、後悔、贖罪。

内子町で訪ねた真理子さんは、会長の尋ね人であるとともに、社長にとっても大事な人だった。

真っ赤な紅葉の下で、真理子さんは恨みを手放す。

本当はずっと手放したかったけれど、きっかけがなく、25年も握りしめたままだった憎しみ。

マイナス感情を手放すということ、もういいよ・・・と相手を赦すこと、自分が受けた傷にしがみつかないこと・・・それはなんと美しいことであろうか。

恨んで生きても、愛して生きても、人生の長さは変わらない。

ならば・・・。

それは人が取りうる選択の中で、最も美しいものではないだろうか。

もみじ

人は間違いを犯す。

そして誰かを傷つける。

傷つけられた方は、憎み、そして恨む。

それは自然な感情だ。

だけど本能にも近いその感情をも超えていくことができる、それが人間の強さであり、美しさ。

ギャグ満載の中で、作者が描きたかったのは、こんな人の在り方なのだろうと思う。

余談だけれど、原田マハさんは、水色の軽自動車が好きなのかな。

他の作品にも出てきたから。

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この記事を書いた人

Chikako

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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