ひとの著者・小野寺史宣の名前は、なんと読むのだろう…。
調べてみた。
おのでら・ふみのり 1968年生まれ、千葉県出身。
あー、なるほど、ふみのりさんね。
小野寺史宣の本は初めて読む。
本屋大賞第2位ということで、平積みされていた。
レビューの評価は両極端に割れているようだ。
…私は、楽しめたけれど。
”ひと”のあらすじ
柏木聖輔は東京在住の20歳。(この名前もなんと読むのか…^^ゞ)
鳥取に住む母が突然亡くなり、天涯孤独の身の上となる。
学生なので、当然蓄えもなく、学費を払えず、大学を中退。
さて、これからどうやって生きていこうか…と当てもなく歩いていた商店街で、美味しそうな匂いに釣られ、フラフラと惣菜屋に入る。
ポケットの中には、55円しかない。
今、聖輔が買えるのは、50円のコロッケだけ。
お腹がぐ~~っと鳴る。
「コロッケください」と言おうとした刹那、横からきたおばあさんに、最後の1個を先に注文されてしまう。
まあ、仕方ないか…。全てに諦めモードの聖輔は、コロッケを譲って店を立ち去ろうとする。
だが、店主の田野倉が聖輔を呼び止めた。
…そこから物語がスタートする。
聖輔はおかずの田野倉で、アルバイトをすることになった。
田野倉夫婦に先輩の映樹さんと一美さんと聖輔の5人で、早番・遅番のシフトを振り分ける。
だんだんに仕事を覚えていくうちに、聖輔には調理師になりたいという目標も生まれる。
店や商店街の人たち、以前のバンド仲間や母親の従兄弟など、日々の淡々とした暮らしの中での関わりが描かれる。
登場人物
いい人もいれば、ずるい人もいる。
優しい人もいれば、聖輔を利用する人もいる。
赦せない相手もいれば、守りたい相手もいる。
たとえば母の従兄弟の基志・44歳。
母が亡くなって初めて会った相手だ。
通夜と葬儀を手伝ってくれたので、頼りになる親戚かと思いきや、基志は母に50万円貸していたと言い出す。
母親の保険金が100万入るのなら、それを返して欲しいと…。
母の性格からして、人に金など借りないだろうと思っても、証明はできない。
これから一人で生きていく聖輔にとって、最後の砦の100万なのに、彼はそこから30万円を渡す。
だが基志はその後、上京してまで聖輔の前に現れ、さらに無心をするのだった。
44歳の大の男が、学歴なし、職歴なし、惣菜屋でアルバイトをする20歳にたかるのだ。
あり得ない!
人としてどうなん、それ?
言いなりになるな、聖輔!…と思わず肩入れしてしまう。
…かと思えば、母の同僚の尾藤さんは、東京へ戻る聖輔に1万円を握らせる。
尾藤さんは母の死を知らせてくれた人で、この人とも聖輔は初対面だった。
大学の学食でパートをする彼女にとって、1万円ははした金ではない。
それでも「もうちょとあげられればいいんだけど…」と言いながら、餞別を渡してくれた。
またバンド仲間の川岸君のお母さんは、聖輔に家庭料理をふるまい、電車代まで渡して、またいつでもご飯を食べに来て…と誘う。
同じくバンド仲間の剣は、聖輔を友達として応援しているが、時として利用したりもする。
聖輔に優しさを与える人と、さらに奪っていこうとする人。
どちらもが共存する世界で、聖輔は自分の立ち位置を探る。
”ひと”のテーマ
世の中には、真面目に誠実に生きている人もいれば、そうでない人もいる。
苦しい状況の中に、なにか希望の種を見いだそうとする人もいれば、そうでない人もいる。
相手に優しさを渡そうとする人もいれば、そうでない人もいる。
それは私たちが生きる現実世界も同じこと。
きれいごとばかりじゃないのだ。
自分の利益しか考えない人もいるし、足をすくおうとする人もいる。
相手の失敗を喜ぶ人もいるし、マウントを取ろうとする人もいる。
でも同時に、いざという時にかばってくれる人もいるし、心配して手を差し伸べてくれる人もいる。
光もあれば、闇もある。白もあれば、黒もある。
そんな中で、自分はどっちを選ぶのか。
なんの制約もない。どっちを選ぶのも自由だ。
そして自分は光と闇に、どう対処するのか?
飲み込まれるのか、受け入れるのか、立ち向かうのか…、それも自由。
大きなどんでん返しもなく、淡々とした日常の羅列で面白くない…と評する人もいるけれど、私たちの日常だって、毎日、大きな出来事が起きるわけではない。
昨日とほとんど変わりない日常が延々と続いていく。
そこにキラリと光る優しさや温かさや繋がりに、どれだけの価値を見いだせるか…と作者は問うているのかもしれない。
Chikakoの感想
私は淡々とした話が嫌いではないし、全ては日常にありき…と思っているので、いい小説だと思う。
味方もいれば、敵もいる。
それは自分も同じことで、好きな人もいれば、好きじゃない人もいる。
グレーゾーンもけっこう大きい。
でもそれでいいのだと思う。
いい人ぶって、善人の仮面をかぶり、きれいな面だけを見て生きるのは、影を無視することだ。
光があれば、必ずそこには影がある。
あるものをない…とするのは、不自然だし、やがては破綻する。
光と影、両方の存在を認められるようになることが、大人になるということかもしれない。
聖輔、頑張れよ…と思わず言いたくなる。
コロッケの記述がひじょうに美味しそう。
今日の晩ご飯はコロッケで‥と、つい言いたくなるよ。(^o^)