娘の本棚に、青山美智子さんの小説が何冊もあった。
以前【木曜日にはココアを】を貸したことがあるけれど、よっぽど気に入ったようだ。
そっか、同じ本が好き・・・というのは嬉しいことだなぁ。
私が未読の本も含まれていたので、早速読んでみた。
【ただいま神様当番】のあらまし
5つのショートストーリーからなる連作。
坂下というバス停から、毎日7時23分のバスに乗るのは、幸せの順番待ちに疲れたOL、がさつな弟にうんざりしている小学生の女の子、リア充を目指すあまり嘘をついてしまう男子高校生、日本語が上手なのにコミュニケーションに困っているイギリス人教師、部下に愛想をつかされて集団退職されてしまった経営者の男性。
この5人に共通するのはバス停だけではない。
ある朝、起きたら、自分の手首から肘にかけて、黒々とした極太の文字で『神様当番』と書かれていた。
どんなに洗ってもこすっても、文字は落ちない。
そして小さなえんじ色のジャージを着たおじいさんが、現れるのだ。
おじいさんは神だと名乗り、「お願いごと、きいて」と言う。
神様当番とは飼育当番や掃除当番みたいに順番に回ってきて、与えれた仕事が終わるまで、つまり神様のお願いごとを叶えるまで続く。
神様のお願いごととは?
神様が提示するお願いごとは、人によって違う。
いつも待ちの姿勢で、自分から積極的に動くことのないOLの咲良には、「わしのこと、楽しませて」。
だらしない服装に、下品な話を連発する小3の弟に辟易していた小6の千帆には、「最高の弟がほしい」。
仲良くなりたい女の子にかっこつけたくて、バスケ部のレギュラーだと嘘をついてしまった男子高校生の直樹には、「わしのこと、リア充にして」。
全くやる気のない生徒に大学で英語を教えているが、「あいつの授業はつまらない」と陰口をたたかれ凹むイギリス人教師リチャードには、「美しい言葉でお話がしたい」。
総勢8名の電気工事会社を営むが、あまりのワンマンゆえに社員5人が同時に辞めて、途方にくれる社長の武志には、「わしのこと、えらくして」。
腕に大きく書かれた神様当番の文字はみっとみなくて、暑くなっても長袖しか着られない。
しかも大事な時に限って、神様が仮の宿としている左手を動かして、勝手なことをしてしまう。
早々に神様に退場してもらうため、5人はそれぞれにお願いごとを叶えようとするのだが・・・。
Chikakoの感想
青山美智子さんの小説は、いつも読後感がいい。
残酷な描写も陰惨な場面もなく、たいていは私たちの日常にありえそうな、ちょっとした困りごとが描かれている。
誰の心にもありそうなコンプレックスや自己卑下や被害者意識。
そういうものが、ちょっとユーモラスにあぶり出され、読者も身に覚えがあるだけに、いったい主人公はどうするのだろう・・・とのめり込んでいく。
たとえば3話の高校生・直樹の場合。
ツイッターでフォローしあっているアザミが、ずっと気になっている。
でも実際に会おうとは思っていなかった。
現実の自分を見たら、きっとがっかりされるから。
ところがある日、アザミが初めて自撮りをアップした。
とても可愛い💕
だがその画像はすぐに削除された。
しばらくして、アザミが「青、そして猫」というマイナーな映画を観に行くと投稿。
かわいいアザミの実物を見たくて、直樹も映画館に行く。
そこで会ったアザミは、写真とは全然似ていない。
自撮り画像はアプリの加工だったのだ。
話をしてみると、アザミはなかなかチャーミングな女の子で、直樹は彼女と付き合いたいと思う。
だが、アザミ(本名は菊子)に嫌われたくなくて、自分はバスケ部で、レギュラーで、イケてるバンドのライブが好きで・・・と嘘に嘘を重ねていく。
引くに引けない嘘を隠すための言動が、誤解を生む。
自分が加工写真のような美人ではないから、友達にも紹介できないんだろう・・・と去って行くアザミ。
10代だもの、格好つけたい年頃だよね。
もう遥か昔のことすぎて、そんな感覚、あったような気もするって感じだけれど、小説を通してちょっと思い出したりもして。
本当の自分を前面に押し出すのは、なかなか勇気がいる。
だが嘘で塗り固めたハリボテのままでは、どこまでいっても嘘の関係しか結べない。
それは友達ですらないだろう。
さて、直樹はどうするのか・・・と気になるでしょ?
作者は、こういう風に読み手を物語の中に引きこんでいく。
神様は「わしのこと、○○して」と要求するのだが、実際は神様ではなく宿主(?)が、その要求を体験しなければならない。
つまり、「咲良を楽しませて」であり、「千帆に最高の弟を与えて」であり、「直樹にリア充させて」であり、「リチャードが美しい言葉でコミュニケーションをとって」であり、「武志をえらくして」なのだ。
それぞれが心の中で本当に望んでいることを、神様が左手を勝手に動かして、実現への道筋をつける。
神様の願いごとは、主人公たちの心の願い。
我が儘で自分勝手で疫病神のような神様は、本当はめちゃくちゃ福の神だったという、ハートウォーミングな物語だった。
青山美智子さんの小説は、面倒くさい現実も、もうちょっと頑張ってみようかな・・・と思わさてくれる、エールみたいな小説だ。
凹んでいる人や、なんだか冴えない1日を送った人にお勧め💕
青山美智子さんの小説
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