お探し物は図書室まで・青山美智子著 

『お探し物は図書室まで』は、新聞の書評で知った。

図書室というくらいだから、きっと本にまつわる物語なのだろう。

元々、青山美智子さんの小説は好きだし、テーマが本とくれば、読みたい!となるのは自然の理。

出会い系サイトで繋がった相手70人に、次々と合いそうな本を紹介した女性がいるが、本との出逢いはまさに運命。

1冊の本が、人生の重大局面で、考え方や在り方や生き方を変えるきっかけになることは、珍しくない。

そんな出逢いの物語ならば、面白くないはずがない!

『お探し物は図書室まで』の概要

5つの短編からなる連作。

つまり主人公が5人いる。

年齢も性別も環境も異なる5人に共通するのは、動機は違えど、全員が区のコミュニティハウスにある図書室を訪ねていること。

そして一様に、レファレンスコーナーにで~~~んと座っている、司書の小町さゆりに、たじろぐ。

なにしろ小町さゆりは巨大で、白熊やゴーストバスターズのマシュマロマンやベイマックスやらんま2/1の早乙女玄馬パンダや鏡餅などと揶揄される。(失礼な話だが・・・)

巨大なさゆりは、大きな身体を丸めるようにして、針でなにかを突きまくっている。

異様に見えるが、実は羊毛フェルトで小物を作っているのだ。

そのさゆりが顔をあげて問う。

『何をお探し?』

パソコンの本だったり、囲碁の本だったり、起業の本だったり、5人は自分の目的を告げる。

さゆりは望みの本を素早く探し、リストをプリントアウトしてくれる。

だがそこに全然関係ない本が、必ず1冊まざっている。

そして雑誌のおまけのように手渡される、手作りの羊毛フェルト。

無関係の本と羊毛フェルトが、この物語のカギとなる。

朋香 21歳 婦人服販売員

どうせ、たいしたことはできない・・・、朋香は自分のことをそう思っていた。

なんとなく受けた会社に内定をもらい、さしたる熱意もないまま、毎日、毎日、うんざりしながら、婦人服を販売したり、クレーム処理をしたりする。

知人に刺激され転職を考えるが、それならエクセルくらいは使えるようにならないと・・・。

区のコミュニティハウスのパソコン教室をのぞいたついでに、図書室に寄り道。

そこでさゆりに勧められたのが、パソコン関係の本と『ぐりとぐら』。

ぐりとぐらは、森で見つけた大きな卵を料理する。

誰もが一度は読んだことがある絵本だが、ぐりとぐらが何を作ったか覚えているだろうか?

2匹が作ったのは、ホットケーキでもオムレツでもなく、カステラだった。

しかもフライパンで!

そこで朋香は、フライパンでカステラを作ってみる。

台所に立つのなんて久しぶり。

料理するのが面倒で、菓子パンや甘い飲料やカップ麺ばかり食べていた。

そういえば、部屋も散らかっているし。

ああ、生活も肌も荒れている・・・。

やる気が起きないのも、無理はないかも。

朋香のカステラは、絵本のようにふっくらと膨らまない。

簡単そうに見えたのに。

さゆりに「何をお探し?」と聞かれ、とっさに思ったのは、仕事をする目的とか、私にできることは何かということだった。

羊毛フェルトのフライパンは、何を意味するのか?

何度もカステラに挑戦しながら、朋香は働く意味や天職を見つけることができるのか?

ぐりとぐら

夏美 40歳 元雑誌編集者

夏美は、20代の女性をターゲットにした雑誌・ミラの編集部で働いていた。

入社して15年、がむしゃらに働き、それなりの功績も挙げ、会社も夏美の貢献を認めていると思っていた。

そんな夏美が、37歳で妊娠。

仕事を辞めるつもりはなかったので、同僚に迷惑をかけないよう、妊娠中もバリバリ働き、1年4ヶ月とれる育休を、4ヶ月で切り上げて復帰した。

ところが会社は、夏美をミラ編集部から外し、閑職へ追いやった。

仕事と子育てを両立するには、雑誌編集部は無理でしょう・・・と、いかにも夏美のためを思うような理由をつけて。

そんなことのために、4ヶ月で復帰したわけではない。

夏美はミラで働きたかったのだ。

・・・だが、彼女の希望は通らない。

思い通りにいかない幼子との生活も、ストレスが溜まる。

夫も子育てを”手伝う”スタンスで、あくまでも主体は夏美だと思っているようだ。

そんな夏美が「何をお探し?」と問われた。

このモヤモヤの解決手段や、私の生きる道、育児に必要な余裕のありか・・・。

もちろん、そんなこと、口には出さない。

だがさゆりは絵本と一緒に、『月のとびら』という星占いの本を薦めてきた。

その本の一節。

ーーー私たちは大きなことから小さなことまで、「どんなに努力しても思いどおりにはできないこと」に囲まれて生きています。

ある日、ミラ編集部で担当した作家のみずえ先生のトークイベントに行けることになった。

みずえ先生を口説き落として書いてもらった小説は、若い女性に大受けし、その後、文学賞も受賞した。

夏美にとっては、いわばトロフィーのような仕事だった。

だが待ちに待ったトークイベントの日、子どもが発熱し、保育園から呼び出しが。

子どもは大事な時に限って熱を出す。

子どもを産んだことを後悔しているわけではない。

だけど母親になったら、女は仕事も夢も諦めないといけないのだろうか。

子どもがいることは、働く女性にとってハンディでしかないのだろうか。

落胆する夏美に、当のみずえ先生から電話がかかってくる。

みずえ先生は言う、「あなたもメリーゴーランドに乗っているのね。」

それはどういう意味?

月のとびら 月のとびら

諒・浩弥・正雄

家具メーカー経理部勤務の諒(35)、ニートの浩弥(30)、定年退職した正雄(65)も、それぞれ探しているものがある。

人生に迷っているというべきか。

次の一歩を踏み出したいが、勇気がない、あるいは方向が分からない。

だけどみんな切実・・・。

小町さゆりにはリーディング能力でもあるのか、彼らが暗に求めているものを、1冊の本という形で提供する。

紹介される本は全て、実在する書籍。

その本を読むのか、読まないのか、活かすのか、無視するのかは、本人の選択だ。

さあ、どうする?

Chikakoの感想

本には知恵を授けたり、人を癒やしたり、明日への希望を与えたりする力がある。

問題は、どの本が・・・ということだ。

同じ本でも、人によって全然捉え方が違うし、面白いと感じる本も、役に立つ本も、人それぞれ。

またその人が置かれた状況によっても、求める本は変わってくる。

ちょうどいい時に、ちょうどいい本に巡り会えるのは、とても幸せなことなのだ。

だから本の知識があり、人を見抜く力も持つ小町さゆりのような人が、今の貴方にはこれですよ・・・とぴったりの本を薦めてくれたなら、そしてそれが自分が求める答えを記した本だったなら、マイ司書を持つのも悪くない。

本を選ぶ醍醐味を斜め上から表現できるのは、著者の卓越した文章力と構成力のたまものだ。

5つのエピソードに登場する迷える子羊たちは、どこにでもありそうなシチュエーションに汲々としている、どこにでもいそうな普通の人たち。

あ~~、あるある、分かる分かると、つい共感してしまうのは、してやられたりの感がなきにしもあらず。

読後感は爽やかで、二重丸をつけてお勧めしたい。

同じ著者の本「木曜日にはココアを」のブックレビュー

同じく「鎌倉うずまき案内所」のブックレビュー

 

この記事を書いた人

Chikako

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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