12のストーリーからなるオムニバス。
舞台は東京とシドニー。
主役は12人。それぞれのエピソードに、色が割り当てられている。
基本的には、ひとつのエピソードに端役で登場した人物が、次のエピソードの主役をはる。
お…、これは私の好きなパターンだ。
エピソードが短く、軽いので、さらっと読み飛ばせるタイプの小説だと思った。
ところが、章が進むにつれ、あれ?あれ?…と混乱を極める。
人物の相関関係が、よく分からなくなってきた。
そう、端役のみなさん、1話だけじゃなく、複数のエピソードに絡んでくるのだ。
たとえば、最も登場回数の多い謎の日本人・マスター。
そのマスターと一緒に仕事をしているマーク。
マークはアツコの夫。
マークが描いた植物園の絵を、マスターが京都の個展で展示し、それを見た優は、植物園に魅せられて、ワーホリでシドニーにやってくる。
緑の絵ばかり描く優がフリーマーケットに出した作品を、マークが見つけて買い、その話を聞いたマスターが、優を探しに行く。
理沙の結婚祝いに泰子がプレゼントしたロイヤルブルーのショーツは、ぴーちゃんの手作りで、ぴーちゃんはアツコの親友として、シドニーでのウェディングに出席している。
シドニーに新婚旅行に来た理沙は、そこで金婚式の老夫婦と知り合いになるが、それはぴーちゃんの両親。
本のタイトルでもある、最初のエピソードのカフェでココアをオーダーする客は、マコ。
アツコはシドニーのカフェで、マコの友人・メアリーと言葉を交わす。
そしてマコは、カフェの店員・ワタルが全然違うシチュエーションで発した言葉で、メアリーへの理解を深める。
…といった具合に、人間関係が1本の線ではなく、同時に何本も入り乱れている。
気にせず、さらっと読める人もいるだろうが、私はそれが気になってしまって、結局、メモを取りながら、2回読んでしまった。
作者の思惑なのか、まんまとしてやられちゃったよ…。(^^ゞ
木曜日にはココアを…の面白さは、複雑な人間関係を読み解くことだけではない。
はっとするような言葉が、さりげなく散りばめられていて、そこに秘められたメッセージに揺さぶられる。
金婚式を迎えた夫婦は、まるで落花生の実のように、よく似ている。
ハネムーン中の理沙とひろゆきが、長い年月を経ると夫婦は似てくるのか…と尋ねると、似るというより、同じになってくるのだと老夫婦。
「この人がわたしで、わたしがこの人になっていくんです。」
それは一心同体とも違う。
血縁がないのが不思議に思えるくらい、つまりDNAすら騙されるほどに、濃い繋がりを感じるのだそうだ。
老夫婦の感覚は、これから50年経たないと分からない。
でも今、50年後も一緒にいたいと思える人が、隣で笑っている。
それより尊いことなんて、ほかにないんじゃないの?
「美佐子さん、きれいだねえ。」
それは鳥のこと? それとも私?
アツコはマスターの口利きで、翻訳家への道が開けた。
そして今また、マスターは優の絵を世に出そうと動き出した。
マスターの姿を見て、アツコは思う。
誰かのために、何かのために、マスターは起点となって人を動かす。
だけど、多かれ少なかれ、誰もが誰かにとってそういう存在なのかもしれない。
きっと知らないうちに、私たちは誰かの人生に組み込まれている。
さらっとしたエピソードを通して語られる、深いメッセージ。
私が読み落としたものもあると思うので、ぜひ探してみてほしい。
では、最後にシンディから質問をひとつ。
貴方はどんな色が好き?それはどうして?
オレンジ。
オレンジは人を明るく迎え入れて、元気で愉快な気持ちにさせてくれるから。
シンディが微笑む。
これはね、”なりたい自分”なんですって。
何色を選んだかよりも、その理由に解答があるのよ。