雨降る森の犬・馳星周著 蓼科の自然と犬が傷ついた子どもの心を癒やす物語

書店で平積みされていた。

表紙の絵は、森に佇む人間2人と大きな犬。

装丁の緑色がとてもきれいだったことと、トライカラーの犬!

それだけで私の興味を引き、迷うことなくレジに向かった。

馳星周さんの本はお初だったが、当たりだったよ。

雨降る森の犬のストーリー

雨音は中学3年生。

9歳で父親を亡くし、母親も恋人を追って渡米したため、山岳写真家の叔父・道夫と住むことに。

道夫の住まいは、蓼科の別荘地。

そこにはバーニーズ・マウンテン・ドッグのワルテルもいた。

犬は群れで生きる動物なので、家の中で序列を作る。

天音を自分の下と判断したワルテルは、まるで言うことを聞かず、天音は閉口する。

隣の別荘の國枝一家は、高圧的な父親と若い後妻と高校生の正樹の3人家族。

正樹は後妻とそりがあわず、ふてぶてしい態度をとり続ける。

道夫を慕う正樹はワルテルとも仲良しで、しょっちゅう遊びにくる。

道夫をはそんな正樹に山と写真を教えることに。

インドアガールで、山には興味のない天音も引っ張り出されて、3人で蓼科山に登る。

しぶしぶついて行ったものの、山頂の360度パノラマに息をのむ雨音。

山の雄大な美しさはもとより、行き交う人たちが自然に交わす挨拶の清々しさ、疲れた身体に染みこむアイスクリームの美味しさ・・・、実際に体験しなければ、分からないことがいっぱいだった。

登るのはしんどいけれど、山っていいかも・・・。

天音は山頂で見た景色を、絵に描いた。

家族のゴタゴタや学校での軋轢で心がザワつく時、天音は絵を描く。

絵に没頭していると、時間を忘れ、現実の嫌なことも忘れる。

もっと山の絵を描きたい・・・、雨音の中に芽生えた想い。

正樹もまた山と写真に魅せられ、のめり込んでいく。

子どもの立場では、どうしようもない現実。

だけどふて腐れて、暴れているだけでは、いつまでたっても子どものままだ。

親が嫌なら、家が嫌なら、自分が大人になるしかないのだ。

自分の生き方を自分で決め、親の庇護の下から出て行くしかない。

そうやって自立してみて初めて、見える景色もあるだろう。

ままならない現実の中で、もがき、あがき、苦しみながら、自分の答えを模索する雨音と正樹。

お互いの抱えた辛さを知り、いたわるうちに、やがて兄と妹のような絆も生まれる。

それを優しく、時には厳しく見守る道夫。

エピソードの要所要所に、必ずワルテルがいる。

犬と人間、種は違えど心は通う。

その仕草で、表情で、体温で、傷ついた心に寄り添い、慰め、励ましてくれる。

ワルテルは、雨音にとっても正樹にとっても、大事な大事な存在だった。

バーニーズ・マウンテン・ドッグ

雨降る森とは?

タイトルの「雨降る森」とは、蓼科の別荘地からさらに奥まった所にある森のこと。

小雨のある日、道夫と雨音と正樹は森へ写真を撮りにいく。

針葉樹がうっそうと繁り、雨が降っても、葉が傘のように覆いとなって、雨粒が地面まで落ちてこない。

そのむせかえるような緑の中に、大きな岩がある。

雨音がその岩の上に立った時、一瞬だけ空が晴れて、雲の隙間から一条の光が差し込む。

まるでスポットライトのように、岩の上の雨音を照らす。

岩の下から見上げるワルテル。

神々しいまでの光景に、道夫と正樹は何度もシャッターを切った。

胸に刻み込んだこの光景とその時撮った写真が、雨音と正樹の歩みを支え続ける拠り所となる。

苦しい時、心が折れそうな時、ふっと思い出して、また立ち上がる力と勇気を得るような・・・。

Chikakoの感想

最初はワルテルに翻弄され、ブーブー文句を言いながら世話をする雨音。

だがやがて大型犬と少女は、心を通わせ仲良くなる。

雨音は中学生ながら、自分の身の回りのことは自分でやり、それなりに料理もするし、道夫の手伝いもする。

大人に対しては常に敬語で、礼儀正しく、一見なんの問題もないいい子に見える。

だがそれは表向き。

確かにいい子ではあるが、雨音は周囲に対して心を閉ざしている。

会話もするし、一緒に行動もするが、常に一定の距離を置き、踏み込まないし、踏み込ませない。

そんな雨音が、蓼科の自然の中で、道夫や正樹やクラスメートたち、そしてワルテルとかかわりながら、少しずつ、少しずつ成長していく。

ひとつひとつのエピソードは地味だが、読み進めるうちに、どんどんその世界に引き込まれていった。

これが小説の醍醐味。

まるで自分がその場にいるような、まるで自分が登場人物であるかのような、まるで自分がその痛みを感じているかのような、そんな感覚に包まれて、本を置くことができない。

私は100%インドア派で、スタミナもなければ、筋力もなく、暑いのも寒いのも嫌い。

だが、雨音の体験を読んで、蓼科山に登ってみたい・・・とさえ思うのだから。

これは作者・馳星周氏の文章の力に依るところも大きいなぁ。

他の作品も読んでみたいと思える作家さんに出逢えると、砂の中からダイヤモンドを掘り出したみたいで、とても嬉しい。

バーニーズ・マウンテン・ドッグ

またワンちゃんと暮らしたいなぁ・・・。

この記事を書いた人

Chikako

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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