松田聖子の歌う瑠璃色の地球は、不朽の名作だと思う。
メロディもひじょうに美しいのだが、なんといっても歌詞がいい。
水平線から上る朝陽、その神々しさと力強さに希望を見いだす。
”争って傷つけあったり 人は弱いものね
だけど愛する力も きっとあるはず・・・”
私たちが暮らす美しい星を守っていきたい・・・と、我らが聖子ちゃんが歌う。
この名曲を上白石萌音がカバーしている。
Sound Inn Sのリモート収録ライブ。
作詞:松本隆 作曲:平井夏美 アレンジ:笹路正徳
涼やかな歌声とミニオーケストラのハーモニーをお楽しみください。
そしてお次は・・・、宇宙戦艦ヤマトのパロディ小説(二次創作)。
宇宙戦艦ヤマトは、1974年10月にテレビシリーズが放映されて以来、45年経っても根強いファンを持つ国民的アニメ。
滅亡間近な地球を救うため、宇宙戦艦ヤマトが14万8000光年彼方のイスカンダルまで、艱難辛苦を乗り越えて、コスモクリーナーを受け取りに行くという物語。
私は高校生の頃にヤマトにはまり、当時から仲間内でパロディを小説を書いて遊んでいた。
つまりオタクのはしりだったわけだ…。(←なにげにカミングアウト💦)
大人になって辞めたけれど、子育てに疲れ果てている頃、外出もままならず、気分転換になるかと、久しぶりに書いてみた。
これはその旅の途中の艦内で、起こったかもしれないエピソード。
シチュエーションや登場人物を知らない人は、訳が分からないと思うので、スルーしてね。
(イメージルームは、バーチャルリアリティ専用の部屋、心療内科の治療などに使われる)
『天使の歌声』by Chikako(2003年6月)
「ちっ!なにもあんな言い方、しなくたっていいだろう!」
人気のない夜中の通路、うつむいて1人歩きながら、俺は不覚にも涙がこぼれそうになった。
確かにポカをやらかしたのは俺だ。今日提出した航路計算の値は、0.2度ずれていた。だけど、たったの0.2度だぜ。
それなのに航海長のやつ、「もう学生じゃないんだから、いい加減しっかりしてくれ。」なんて言う。
一応は上官だが、あいつは同期だ。一緒に訓練校で勉強して、馬鹿やって、懲罰も一緒にくらったいわば仲間だ。それなのに、ヤマトに乗艦した途端、お偉くなっちまって…。
コツコツコツ、靴音がやけに虚しく響く。
すると向こうからコッコッコッと軽やかな足取りで、人影が現れた。
「あら、○○君。こんな夜中に、まだ仕事?」
森さんだ。大きなファイルを抱えている。
「い、いや、今日はもう上がり。森さんこそ?」
「私は、生活班の当直なの。」
そこで森さんは、じっと俺の顔を見た。正直、今、あんまり見られたくないんだけど。
「なんだか疲れているみたいね、○○君。」
「そんなことない…」
「ちょっと来て。」
俺が言い終わる前に、森さんは空いているほうの手で、俺の腕をぐっと掴んで、手近なドアに引っ張り込んだ。
も、も、も、森さん。いけないよ、こんな時間に、こんな場所で2人っきりだなんて!それに、いきなりそんな…。俺にだって心の準備ってもんが。
突然の展開に俺がおたおたしていると、暗い部屋に俺を連れ込んだ森さんが言った。
「ちょっとここで待ってて。」
そ、そうか、歯でも磨きに行くのかな。俺は別に気にしないけど、女の子はなにかと大変なんだろう。
ドキドキしながらトンチンカンなことを妄想していると、俺の周り360度が宇宙空間に変わった。なんだ、ここって、イメージルームじゃないか。
でもこの星の配置は…、見たことあるぞ。
「これは…、太陽系?」
「そうよ。さすがは航海班ね、○○君。」
いつの間にか森さんが制御パネルの前にいた。
「データファイルを整理していたら、いい映像を見つけちゃったの。○○君にだけ特別に見せてあげるわ。」
えっ?特別って、そ、その、その方面の映像?
…なわけないだろ、と自分で自分の頭を小突く俺。
森さんはなんかゴソゴソやっていたけど、お盆を手に戻ってきた。「はい、どうぞ。」と差し出された小さな塗りのお盆(どこから持ってきたんだ、こんな物)。
湯飲みから、ほわほわと湯気が上がっている。日本茶だ。いつもの出がらしのコーヒーじゃない。その横には慎ましやかに饅頭まで添えてある。
「どうしたの、これ?」
「幕の内さんが夜食にって、内緒で作ってくれたんだけど、一緒に食べましょ。」
森さんはクスッと笑って、肩をすくめた。
か、かわいい…。俺は思わず理性を落っことしそうになった。
「ほら、見て。」
俺の邪心を知ってか知らずか、森さんが無邪気に指差す空間に、青い輝きが現れて、みるみる大きくなっていく。
この位置にあるのは、まぎれもなく、地球。それも青い地球だ。
地球はどんどん大きくなって、俺たちは地球に飲み込まれていく。大気圏を抜けた2人の眼下に広がるのは、これまたどこまでも青い海。島が点在している。
俺は思わず深呼吸する。嗚呼…、なんだろう、この感覚は。
地球を飛び立ってから、戦いに明け暮れ、ヤマトは傷つき、クルーも負傷し、みんな疲れきっている。果てしのない旅の途中で、イスカンダルが本当にあるのか…という疑問も涌いてきた。狭い艦内に閉じ込められ、いつ攻撃されるとも知れぬ緊張感から、心が休まる暇もない。
がんばってるんだよなぁ、俺たち、みんな。
なんだか鼻の奥がツーンと熱くなってきた。薄暗くてよかった。こんな顔こそ、見せられないよ。
かすかなBGMが聞こえる。なんだっけ、この曲は。
「○○君、知ってるの?これ、古い曲なのよ。確か200年くらい前の曲なんだけど、今の私たちにぴったりかもしれないわね。」
い、今の私たちって、森さんと俺ってこと?森さん、もしかして俺のこと…。
いけないよ、今はそんなこと考えている場合じゃない。ヤマトは一刻も早くイスカンダルに行かなくちゃならないんだ。
だから、俺に惚れちゃあ、いけねえぜ、ユキ。
俺が的外れな思いにふけっていると、森さんがBGMに合わせて細い声で歌い始めた。
「夜明けの来ない夜はないさ…♪」
細いけど、なんて透き通った声。まるで天使の歌声だ。俺はじっと聞き入った。
映像はさらに海に近寄って、海面すれすれを流れていく。青、緑、藍色と海は微妙な色合いを帯びて、俺たちを包み込む。あっ、イルカの群れだ。
「瑠璃色の地球~♪」
ああ、そうか、私たちっていうのは、人類ってことなんだね。ちょっと残念だけど、まあ、いいさ。俺は日本茶をすすった。なんだかとても穏やかな気分だった。
映像は海面を離れ、再び大気圏を脱し、宇宙から見る地球に戻った。
確かに瑠璃色の地球だ。あの星のために、今、この苦しい旅をしているんだなぁ、俺たちは。
そっと傍らの森さんを見ると、森さんもこっちを見て、にっこりした。特上の笑顔だった。
「がんばろうね、○○君。」
「うん。」
ほんっとにくぁわいいなぁ。でもここで押し倒すのはやめとこ。なんたって、天使の歌声、聴いちゃったんだから。
俺は子どもみたいな返事をしながら、またまたいけない方向へ飛んでいきそうになった自分を急いで引き戻す。
そして反省した。0.2度の誤差だって、何万光年もそのまま進めば、とんでもない場所に行ってしまうはずだ。航海長がうるさく言うのも、もっともなことだ。
やっぱりあいつはチーフだけあるよな。同期の俺相手に、きっと言いにくかっただろうに…。
よし、明日からは、ちゃんと検算しよっと。
ありがとう、森さん。
なんだか元気になっちゃった俺は、お茶をずずっと飲み干して、立ち上がった。