文化の日の休日、なんの予定もなく、夫も仕事だったので、1人で映画でも観てこようと、新聞のスケジュール欄をざっと眺めて選んだ映画。
なんとこの日が初日だったとは、後から知った。
地元石川の映画館はたいていガラガラで、平日に行くと貸し切り!・・・なんてこともある。
それがこの日は2割くらい席が埋まっていて、都会からしたら考えられないかもしれないが、今日、混んでるなと感じた。
それは初日ということだけでなく、この作品が人気だからだろう。
私は元々はよしながふみさんの原作のファン。
きのう何食べた?は、2007年からモーニングで連載開始。
現在も連載中だというから、かれこれ14年も続いているロングラン作品だ。
主人公は、弁護士のシロさん(西島秀俊)と美容師のケンジ(内野聖陽)の同性カップル。
だがいわゆるボーイズラブの生々しい描写はなく、2人の日々の生活が淡々と描かれている。
ご飯を作って2人で食べる・・・、生きている限り延々と続く暮らしの原点みたいな。
作者のよしながふみさんは、最初、お料理漫画として描き始めたとのこと。
毎回、調理やレシピの紹介が5~6ページは含まれている。
それもお母ちゃんの料理・・・みたいな、一般家庭の一般的なご飯。
なんでそんないうなれば地味な話が、ここまで人気を博すのか。
【きのう何食べた?劇場版】のストーリー
「ケンジ、今年の誕生日プレゼント、来月でもいい?一緒に京都に行かないか?」
シロさんのひと言に、ケンジは驚愕するとともに、小躍りして喜んだ。
乙女なケンジにとって彼氏との旅行は憧れだったが、周囲にゲイであることを知られたくないシロさんは、ずっと旅行を拒んでいた。
突然、どうして・・・という疑念も吹っ飛ばすほど、舞い上がるケンジ。
だが京都に着いてから、何か変だと思いだす。
一緒に写真を撮ったり、ケンジが行きたがっていたうどん屋を調べてあったり、豪華絢爛な宿が予約してあったり。
普段のシロさんは、絶対こんなことしない。
ケンジの疑念はどんどん高まる。
もしかして別れ話?
いや、そんな甘いもんじゃない。
もしかしてシロさん、重い病気なの?
もうすぐ死んじゃうから、こんなに優しくしてくれるの?
ほんのりとライトアップされた竹林を歩きながら、ケンジはパニック寸前。
この時のBGMがとにかく面白いから、楽しみにしててね。
別れ話でも死別でもなく、シロさんはケンジに謝りたいことがあった。
そのための京都旅行だったという落ち。
(C)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社
そんなオープニングから、主婦仲間の佳代子さん(田中美佐子)、友人の小日向さん(山本耕史)とジルベール(磯村勇斗)、ケンジの同僚の田淵くん(松村北斗)や店長の三宅(マキタスポーツ)、シロさんの両親(梶芽衣子と田山涼成)たちとの関わりを通して、普通の人の普通の日常が描かれていく。
【きのう何食べた?劇場版】のメッセージ
誰でも直面する親との問題、仕事の悩み、加齢による体の変化、パートナーとの関係性。
それは男女のカップルでも、同性カップルでも変わりはない。
日々、生活していくこと、日々、関係を紡いでいくこと、日々、ご飯を作って食べること、・・・何も変わりはない。
ずいぶんと理解は進んだけれど、一般的にはまだ普通と思ってもらえないLGBTならではの葛藤もある。
制度に護られないからこそ、相手のことを大切にしなくちゃ・・・と2人は心に刻む。
でも本当は、誰もがそうしなくちゃいけないんだよね。
パートナーを大切にするって、誰にとっても人生における至上命題のはずだから。
そして何の気なしに普段食べている食事が、実はとてもとても大事だということ。
食べるということは、生きることそのもの。
なのに私たちは、けっこう疎かにしていないだろうか?
原作では、シロさんに出世欲はない。
弁護士事務所の所長に、「自分にとって一番大切なことは、定時に帰って、ご飯を作って大切な人と一緒に食べることなんです」と、所長就任の打診を断る。(結局、共同経営になるが)
一食、一食のご飯を、私たちはここまで真剣に大事にしているだろうか。
空腹を満たすためだけではない、心を満たす食事を心がけているだろうか。
ああ、耳が痛い・・・。
そして大切なのは、作ることだけではない。
ケンジは原作でも映画でも、シロさんが作ってくれたご飯を実に美味しそうに食べる。
そして必ず感想を述べる。
これ、大事!すっごく大事!
大切なことなので、もう一回言うね。
ご飯を作ってもらったら、美味しい顔をして食べること。
たとえ好きじゃなくても、相手の労に感謝すること。
だって料理は、お皿に乗った愛なんだから。
無言で、テレビやスマホを見ながらなんて言語道断だぞ!
【きのう何食べた?劇場版】に登場するお料理
2時間の映画なので、コミック18巻分の料理を全部網羅するのは、もちろん無理。
たぶん原作者や脚本家が、これぞ!と思った選りすぐりのエピソードとお料理が、コミックの掲載順に関係なく出てくる。
キャラメルリンゴのトースト、なんちゃってローストビーフ、きんきのアクアパッツァ、おせちの黒豆、ブリ大根、厚揚げの味噌挟み焼き、ケチャップ味のミートボールなど。
調理の課程から、テーブルに並んで、美味しくいただくまで、しあわせオーラがぷんぷん漂う。
お腹が空いている時に観ると、辛いかもしれない。
(C)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社
なんちゃってローストビーフは、私も作ったよ。
すぐ影響される私は、映画を観た日の晩、早速ブリ大根を作ってみた。
スーパーにブリのアラがなかったので、切り身を使ったけれど、我が家には魚は骨が・・・とか言う子どもみたいな人がいるので、ちょうどよかったかも。
キャスティングの勝利
原作が面白いのは言うまでもないが、この作品が人気なのはキャスティングの妙もある。
シロさん役は、安定の西島秀俊。
真面目で仕事はできるが、倹約家で人付き合いがあまり上手ではない弁護士役がぴったりはまる。
恥ずかしがり屋だが実は優しいシロさんの、時折見せるはにかんだ笑顔や声音に、世の女性たちはやられちゃうんだろうな・・・。💕
(C)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社
そしてケンジ役の内野聖陽が、とにかく可愛い。
いい年のオジサンをつかまえて”可愛い”もないが、その乙女っぷりが違和感なく、可愛い以外の形容詞が思いつかない。
でも信じられる? 【臨場】のあの倉石とケンジが、同一人物だって。
漢と乙女、役者ってすごいなぁ・・・。
(C)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社
先日、内野聖陽さんは、紫綬褒章を受章された。
おめでとうございます!