大好きなマカン・マランシリーズ全4巻。
読み終わってしまうのが惜しくて、ちびちびと舐めるように読んできて、2020年夏にはいったん読了。
だけどレビューを2巻分しか書いていなかったことに気づいた。
じゃ、最初からもう1回読もうっと💕
私はご縁が切れた本は断捨離することにしているが、マカン・マランが手元を離れていく日は、来ないかもしれないなぁ。
【きまぐれな夜食カフェ マカン・マランみたび】のあらまし
急行が止まるようになって、急激に発展した新線の駅とその周辺。
だが未だ残る地元の商店街の外れ、細い路地を抜けた先にひっそりと佇む古民家がある。
昼はダンス用品専門店として、ギラギラの衣装を販売しているが、夜になると雰囲気ががらりと変わる。
玄関のカンテラにぽっと灯りがともると・・・。
それが夜食カフェ、マカン・マランの開店合図。
カフェのオーナーは、胸板厚く、彫りの深い、身長180センチの大男。
なかなかのハンサムだが、厚化粧にピンクのかつら、ナイトドレスに身を包んだドラァグクイーンのシャール。
たいていの人は社会的偏見とその容貌に腰が引けるが、いったんシャールの懐に飛び込むと、その優しさにいつの間にか心の鎧を脱ぎ捨ててしまう。
そう、マカン・マランはネットにもタウン誌にも載っていないが、疲れた人や傷ついた人が重荷を下ろしてくつろげる港のような場所なのだ。
第1話 妬みの苺シロップ
”私はあなたが嫌いです”。
人気の店や作品をディスり倒すブログ、通称”ワタキラ”。
記事の内容は辛口批評ではなく、単なる悪口とこき下ろし。
だが世間には、こういうネガティブな意見を喜ぶ人が案外たくさんいて、ブログのアクセスはどんどん伸びる。
実際に利用したことがない店も、ただ周辺をうろついて雰囲気を見ただけで、なにもかもをとにかく批判する。
ディスリの女王ワタキラ・湯月綾は、大手パソコンメーカーのカスタマーセンターで、オペレーターのバイトをしている。
就職活動に失敗し、もうかれこれ4年もアルバイトのままだ。
仕事にやりがいも情熱もあるはずはなく、客の要望や訴えをいい加減にあしらっている。
そんな綾の唯一の楽しみが、店や作品をディスること。
たくさんのいいね!やアクセスで綾は自尊心を満たし、自分の怒りや苛立ちを発散させる。
目下のターゲットは漫画家の藤森裕紀。
裕紀が時々SNSにアップする隠れ家みたいなカフェ。
たいそう気に入っているようなので、場所を特定してネットで晒してやろうとマカン・マランにやってくる。
そこでシャールにブログのことがバレてしまうのだが・・・。
「青梅みたいに毒があるものでも、漬け込むことで、ちゃんと食べられるようになるのよ。
人の毒も同じことよ。」
第2話 藪入りのジュンサイ冷や麦
香坂省吾は料理人。
だが彼は味覚を失って料理ができなくなり、心療内科に通っている。
きっかけは、世界一のレストラン・ジパングの期間限定フェアにホールスタッフとして抜擢されたこと。
その3年前から実直な料亭で働いていた省吾だが、仕事は掃除や雑用ばかりで、店に自分の居場所を見つけられない。
しびれを切らせて店主に内緒で応募したコンテストで準優勝。
優勝者の芦沢庸介とともに、華やかな世界に足を踏み入れる。
フェアが終わった後、庸介は貴重な経験とジパングのネームバリューを生かし、自分の店を立ち上げる。
だが省吾は自炊すらできない身に。
店のオープニングパーティで、料理に対する庸介のスタンスが浮き彫りになった。
打ちのめされた省吾は、取材記者のさくらに引きずられるようにして、マカン・マランの門をくぐる。
「居場所なんて、無理矢理見つけるものじゃないのよ。
自分の足でしっかりと立っていれば、それが自ずとあなたの居場所になるの。
要するに、あなたがどこに立ちたいかよ。
第3話 風と火のスープカレー
湾岸のタワーマンションに住む燿子は、ずっと人に選んでもらったものを受け取ってきた。
それなりに成功者と言われる人生を歩んできたが、自分の意志で選び取ったものがない。
結婚ですら、そうだった。
失恋の痛手に耐えきれず、ちょうど目の前にいた男と結婚してしまった。
タワーマンションでの生活は退屈だった。
周囲の奥様たちは暇を持て余し、他人の不幸をあざ笑いながらマウントを取る。
表面的には上流を装っているけれど、その心根は全然美しくない。
そして今、仮面夫婦として暮らす夫は、結婚14年目にして離婚したいと言う。
愛人に子どもができたから。
しかも見栄っ張りの夫は、円満離婚を強調したくて、盛大な離婚式をもちかけてくる。
離婚式を承諾した燿子は、マカン・マランを訪ねる。
結婚する時は、シャールにウエディングドレスをオーダーした。
今度は離婚式のドレスを作ってもらうために。
「最後まで本心を告げなかったのは、本当に好きな相手を傷つけたくなかったからだ。
自分がこんなふうに誰かを愛せるという事実が、一筋の勇気となって燿子に通う。」
第4話 クリスマスのタルト・タタン
マカン・マランの常連、瀬山比佐子は一人暮らしの高齢者。
古い木造のアパートで気ままに暮らしている。
だが自分もそろそろ終活を考えなければ・・・と、エンディングノートを書くことにした。
項目を埋めながら、自分の人生や死後のことに思いを馳せる。
両親にあまり大切にされなかった比佐子のたったひとつの拠り所は、離れに住む祖父だった。
祖父が銀座の喫茶店でご馳走してくれたコーヒーとタルト・タタン。
懐かしい味は、懐かしい思い出までも連れてくる。
クリスマスイブ、誰もいないマカン・マランで、比佐子とシャールは二人きりで食事をし、食後にタルト・タタンをつつく。
子どももなく、婚家でも”外れくじ”と言われ、妹に先立たれ、甥っ子たちとは疎遠になり、あまりいい思い出のなかった比佐子は、今が一番しあわせだと思う。
誰に取り繕うことなく、自然のままに、ただくつろげる空間と・・・、そして77歳になって素敵な友達ができたから。
「大事なのは、先のことをあれこれ気にかけるより、今をできる限り上機嫌に過ごすことなんじゃないかしら。」
Chikakoの感想
結末を知っている物語は、面白さが半減する。
・・・だけど、2回目でも3回目でも、染み入ってくる物語だってある。
それは本でも映画でも舞台でも同じこと。
本物って、こういうものかもしれない。・・・あくまで私にとっての本物だけれど。
シャールの含みのある言葉は、きれい事ばかりじゃない。
半世紀を生きてきて、しかもドラァグクイーンだ、心ない言葉を投げつけられたことも、偏見にさらされたことも、嫌な経験はいっぱいあっただろう。
だから人の裏も表も、いろいろ知っている。
知っているからこそ語れるのだ、理想だけでは通らないこの人生というものの不条理さ、だけどそれでも生きていく強さやしたたかさを。
人生っていいことばかりじゃない。
時として、しょっぱかったり、ほろ苦かったり、痛かったり。
だけどそれも全部ひっくるめて、自分の人生。
生きていこうね、前を向いて。
私の娘も全巻読んでいるけれど、きっと私とは違う響き方をしているのだろうと思う。
それが経験の差というものかなぁ。😊
↓ちょっと疲れた夜や、優しさが欲しい時にお勧めです。