ご存知のように、石川県の能登半島は、昨年、2回の災厄に見舞われた。
元日の地震&津波と9月の豪雨。
どちらも壊滅的な被害をもたらしたが、それでも人々は能登で生きている。
同じ石川県でもほとんど被害のなかった加賀地方に暮らす私たちに、なにかできることはないだろうか・・・。
国や県がするような大きなことはできない。
体力もないので、復興ボランティアも現実的ではない。
・・・そこで私たちは、パンを買うことにした。
義援金食パンの会
加賀市にnicoさんというパン職人がいる。
国産小麦を使いこだわりのパンを焼いたり、パン教室を主宰したり、カフェランチを提供したりする。
パン種と丁寧に対話しながら焼く食パンは、大量生産はできない。
魂込めて焼けるのは、1日に6本まで。
そのパンを倍の値段で買い、収益を能登に送ろう。
義援金をそのまま寄付すればもっと速いのに、こんなまどろっこしいことをするには理由がある。
nicoさんは能登出身で、ふるさとの被災に深く心を痛めていた。
能登の誇りでもある、曹洞宗大本山總持寺祖院も大きな被害を受けた。
2007年の地震被害からの修復を終えたばかりだというのに。
この寺は能登の人々の心の拠り所だそうだ。
總持寺のために、なにかしたい・・・nicoさんの強い想いに私たちは一も二もなく賛同した。
こうして義援金食パンの会が立ち上がった。
メンバーはたったの6人。(1日に焼ける最大数が6本だから)
毎月、倍額で食パン(月ごとに違う味)を買い、1年が経ったので収益を總持寺に送った。
それを機に、みんなで總持寺に行ってみようという流れになり、どうせなら行く先々で能登の品を購入し、地元の売り上げに貢献しよう・・・と、計画がまとまった。
名付けて「能登でお金を使おうよ!」ツアー。
自分たちも楽しむ
支援には、ドカンと一発大きくする支援と、小さくても延々と続ける支援とがある。
前者は国や行政や企業がやればいい。
私たちは後者を、ずっとずっと続けよう。
そして息の長い支援は、無理をしたら続かない。
無理なく、自分たちも楽しんで(パンを美味しくいただいて)・・・それが続けるコツかもしれないね。
だから私たちは、このツアーを目一杯楽しもうと決めた。
この個人的な旅をレポートするのは、能登に行くハードルがもっと下がったらいいなと思ったから。
可哀想という目で見るのではなく、同じ国の一部として、私やあなたの一部として、ずっと忘れずに、共に在ることが大切だと思ったから。
カキテラス波音
メンバーは同じ加賀地方とはいえ、加賀や小松や金沢に散らばっているので、レンタカー2台に分乗して、中島町のカキテラス波音で集合することにした。
中島町は、牡蠣の町。
毎年2月に行われる牡蠣祭りには、多くの人が訪れる。
牡蠣小屋みたいな、海辺の掘っ立て小屋を想像していた私の目に飛び込んできたのは・・・。

え? めっちゃお洒落
オープンは2024年11月。
豪雨災害のわずか2ヵ月後。すごい!

ランチセットは1800円。
追加で殻付き牡蠣も頼める。(目の前のコンロで焼いて食べるよ)
だけどパチンと豪快に弾ける牡蠣が怖い・・・という人もいて、すでに剥いて焼いた牡蠣が3つもついてくるので、私たちはこれで十分。
窓の外に広がる海には、養殖のいかだが浮いている。
究極の産地直送だなぁ。

【まつとおね】鑑賞
中島町には、俳優の仲代達矢さんがプロデュースした、能登演劇堂がある。
演劇専用のホールで、舞台の奥が屋外に向かって開くことで有名だ。
ここで5日間だけ上演される「まつとおね」は、能登半島復興祈念公演だ。

吉岡 里帆 まつ (前田利家の妻のちの芳春院)
蓮佛 美沙子 おね (豊臣秀吉の妻のちの高台院)
最初から最後まで、この二人の会話のみを通してストーリーが進む。
休憩なしの80分、ずっと喋りっぱなしの二人。
若いけれど、実力派の女優さんたちだ。
最後に舞台奥がぐ~~~っと開き、尼僧姿の二人が静かに歩いて去って行く。
なぜにおねは般若にならなければならなかったのか。
戦に翻弄された女性が未来の私たちに託したものは、なんだったのだろう・・・。
(余談だが、舞台が開くと外の風景に繋がるが、もし今、庭師のおじさんでも、ひょっこり横切ったら・・・などと、いらぬ心配をしてしまった)

碧凪とtonot
1泊目の宿泊は、人数の関係で2カ所に別れることになった。
まずはオーシャンビューの碧凪へ。

1日2組限定の半棟貸しヴィラ。
お部屋の名前は、laniとkai。
laniはハワイ語で空、kaiは海。
ハワイをイメージしているのかな。
私たちが借りられたのはlani。
1階も2階も大きな窓から海が見渡せる。
お隣のkaiには、プライベートプールもあるようだ。

リビング。
ごろんと寝転がれる大きなソファは、座り心地(寝心地?)抜群。
寝転がったまま海も星も眺められる。

2階にはベッドルームがふたつ。

デッキチェアーで、七尾湾を独占。
対岸にうっすらと見えるのは、和倉温泉。
本来なら、たくさんの人で賑わっているはずなのに、今は営業中の旅館もなく閑散としている。(工事関係者に部屋を提供している旅館はある)
名だたる温泉旅館が建ち並び、浴客が海辺をそぞろ歩く光景が戻ってくるのは、いつになるのだろうか。

デッキに露天風呂。
目の前は海だけれど、目隠しはない。
ここに入るには、度胸が必要だが、もしかしたら夏場に泳いだ後、水着のまま浸かるための風呂かもしれない。
夕闇が迫り、そろそろお腹も空いてきた。
夕食はもうひとつの宿泊場所に、ケータリングを頼んでいた。

アートと泊まる一棟貸しの宿tonot。
木の香漂うtonotは、無印良品の家なんだって。
オーナー夫妻が陶芸家で、至る所に焼物や能登島ガラスやアート作品が飾ってある。
真横にのと鉄道が走っていて、田園風景の中の単線は、まるでスタンド・バイ・ミー。
ケータリングは、オードブル、刺身の盛り合わせ、しゃぶしゃぶセット。

全部、美味しそ~~~

しゃぶしゃぶのお肉も見事!
これだけ霜降りだったら、普通、脂っこくて沢山は食べられないけれど、この肉はスルスルと何枚でも入る感じ。

器は、全てtonotの備え付け。
オーナーが焼いた器や能登島ガラスの酒器が、ほんとに可愛くて和む。
後ろの壁の棚に飾ってあるカップ類も、好きな物を使ってよいとのこと。
お酒も・・・、差しつ差されつ。
メンバーが持参した群馬の土田酒造の柚子酒。
わざわざ酒蔵まで買いに行くほどの熱の入れようだ。
ストレートでも炭酸で割っても、とにかく飲みやすくて美味しい。

ここで私がしみじみ感じたのは、何を食べるかももちろん大事だけれど、誰と食べるかはもっと大事だなぁということ。
ほぼ初対面の人がいたにも関わらず、みんな旧知の仲かのごとく、食べて、飲んで、語らった。
そして、たくさん、たくさん笑った。
大人になってから、こんなに無防備に、大口開けて笑い合えることって、そんなにない。
きっと私たちには、利害関係も忖度もないし、社交辞令も不要だからだと思う。
お腹がはちきれそうになるまで食べて、もう何も入らないという時になって、デザートが出てきた。

nicoさんが焼いたシフォンケーキ。
わざわざ保冷ボックスに入れて、持ってきてくれた。
シフォンケーキなら常温でも大丈夫なのに・・・って思うでしょ?
でもこのケーキは、シフォンはシフォンでも、異次元の食感だった。
口の中でほろほろと蕩けていく。
濃厚なのに軽い。
シフォンケーキのイメージを覆す至福のケーキだった。
どんなネーミングだったらこの至福感が伝わるのかと、突如ネーミング会議が始まり、ああでもない、こうでもないと大いに盛り上がった。
「お腹いっぱいで、もう何も入らない」とのたまっていた全員がペロリと完食して、「もう一個ないの?」

tonotの玄関先に、鮮やかな椿が咲いていた。
どんなに傷ついても、変わらず花は咲く。
そういえば、そんな歌があったなぁ。
楽しい余韻に浸りながら、1日目の夜は更けていった。

カキテラス波音、能登演劇堂、碧凪、tonot、全て七尾市中島町。