義理の母は98歳。
94歳まで一人暮らしをしていたが、現在は老人ホームにいる。
小学校の先生を勤めあげ、退職後に農業を始めた。
研究熱心で、様々な野菜をプロ並みに育て上げ、しょっちゅう送ってくれた。
キーウィやスイカも絶品だった。
物怖じせず、誰にでも気さくに話しかけ、すぐ仲良くなってしまう。
以前、砺波のチューリップ祭りに出かけた時、周囲は大渋滞で駐車場も満車だった。
義母は通り沿いの一軒家のインターホンをならし、1時間車を置かせてくれまいか…と交渉した。
知り合いではない、全くの他人の家。
嫁いだばかりの私はびっくり仰天した。
ところが、義母の人懐こさ(図々しさ?)に、家の人はニコニコしながら、駐車場を貸してくれた。
富山県人、すげーーーーーー!
そんなチャキチャキの義母だったが、段々と年を取り、今はいろんなことを忘れてしまう。
老人ホームに面会に行っても、まず自己紹介から始めなければならない。
今日も、どなたですか?と問うので、Chikakoですよと答える。
ああ、Chikakoさん。名前は分かるけど、顔が分からん、ごーめんねーー。
Chikakoさんは、○○(夫)の奥さんだねーー?
もう98歳だから、忘れるっちゃ。
シワシワのおばあさんになっちゃったーーー。恥ずかしいわーーー。
見ないでねーーーと、手で顔を隠す。
しばらくすると、また、誰ですか?ああ、Chikakoさんが始まる。
でも義母は、始終笑っている。
小さくなっちゃった目をしょぼしょぼさせながら、忘れちゃったーーーと笑っている。
98歳になって、こんな風に笑っていられるのって、いいな…と思う。
足腰も弱ってきて、車椅子を使っているし、できないことが日々増えていくが、世の中の面倒くさいこと全てから解放され、童女のように笑っている。
義母が笑っているので、夫も救われているようだ。
義母は会う度に、だんだんと色が抜けて、透明になっていくように感じる。
生きるため身につけてきた様々な色が、全部剥がれて透明になっていく…。
天使みたいになっていく…。
そして透き通った心と体と魂は、出てきた所へまた還っていくのだろう。
何度も同じことを聞く義母に、何度も同じことを答えながら、命の循環を想う。
童女のようになった98歳と、お遊戯をしながら。
心の中で、ありがとうを伝えた。
たくさん生きてくれて、ありがとう。
(感染予防のため、ホーム内には入らず、玄関で面会)