その昔、調香師が主人公の映画を観たような気がする。
舞台は中世のヨーロッパ、主人公は香りに敏感で貪欲な男。
ずいぶん昔のことなので、ストーリーは忘れてしまったが、物語も画面も暗い映画だった。
その時知った、この世には、類い希なる嗅覚を持った人が存在すると。
絶対音感がある人には、全ての音が音階で聞こえるという。
救急車のサイレンなんかも、一瞬で音階に変換する。
それと同じように、嗅覚が鋭い人は、日常すべての香りを、ひとつひとつ認識しているのだろうか。
調香会に参加した
私は元々、香りにあまり敏感ではない。
アロマオイルを嗅いで、いい匂い・・・と思う程度だ。
嗅ぎ分けも、ラベンダーとミントとオレンジくらいしかできないかも。😅
その私が、オリジナルの香りを作ってもらうことになった。
最初、調香会と聞いて、・・・パスしようかと思ったのだけれど、『貴女のための、貴女だけの香り』という謳い文句に、グラッときた。
調香師は、まだ若い薬剤師の青年、香りのセンスがすばらしいと評判だ。
まず最初に、香りについての講義を受ける。
その時点で、あれっ?・・・と思った。
言葉の選択が面白い。
自分の母親くらいの年代の熟女たちを前にして、臆することなく、飄々と語る。
・・・自然体、そう自然体なのだ。
こんな例えは失礼かもしれないが、なんだか鮎みたいだなと思った。
それも養殖ではない、天然の若鮎。
さて、この青年、船戸大敬さんが説明してくれたところによると、香りにはトップとミドルとベースの三種類ある。
トップノートはレモンなどの柑橘系、持続時間は15分ほどしかないが、つけた直後に一番印象に残る。
ミドルノートの代表格はラベンダーやゼラニウムで、持続時間は2~3時間。
ベースノートはフランキンセンスなど。一番最後まで残り、だいたい7時間くらい楽しめる。
調香とは、この3種類をバランス良く組み合わせていくことで、使うアロマの種類が多ければオードパルファムに、少なければトワレやコロンになる。
へ~~、パルファムやコロンの定義、初めて知ったなぁ。
大敬さんが使うアロマオイルは医療用で、植物性だけでなく、動物性の香りもある。
なんとジャコウネコの肛門腺のオイルまで!
昔ワンコを飼っていた時、シャンプーの度に肛門腺を絞っていたが、すごく臭かった。
あんな匂いを使うの?・・・と思ったが、なんとジャコウネコのアロマオイルはとても高価で、5㎖で30万円もするらしい。
調べてみたら、ジャコウネコの糞からとれるコーヒーもあり、希少価値が高く、幻のコーヒーと呼ばれている。
なんでもジャコウネコは最も熟した美味しいコーヒー豆だけを食べ、それが体内で発酵して未消化のまま排泄される。
その排泄物が、独特のよい香りを放つのだとか。
いい香りのウ○チなんて、にわかには信じられないが、世界には私の知らないことが、まだまだまだまだいっぱいある証拠であろう。
30万円の香りを嗅がせてもらったけれど、どこが30万円なのか、よく分からなかった。
ネコに小判とはまさにこのことだ。・・・ジャコウネコだけに。😅
香りを調合する
30分の超特急講義が終わると、実際の調香に入る。
まず大敬さんが自作の小説を読み、私たちはその感想を4つのワードから、さらに4つのアロマオイルから、一番好きな香りを選ぶ。
その選択によって、ベースノートが決まる。
たいていはワードとアロマの傾向が一致するらしいが、私の選んだワードとアロマは違っていた。
私が選んだベースはローズ。
あ、なるほど。これは納得。バラ大好きだもの。
だけど私が選んだワード『安心』にマッチするのは、ベルガモットだった。
調香師は言った。
「ではローズのベースに、少しベルガモットを足しておきましょう。」
その後、三つずつ小瓶を渡されて、一番好きな香りを選ぶことを繰り返した。
いろいろ嗅いで、鼻がおかしくなったら、自分の体臭を嗅げばいいとのこと。
小瓶と自分の腕とを、交互にクンクンする怪しい人になってしまった。
それでも分からない時は、「では、よきに計らわせていただきます」と大敬さんが選んでくれる。
なんだか甘~~い香りになった時は、少しキリッとさせましょう。
少女っぽい香りになった時は、少し熟女のエッセンスを足しましょう。
ぼやっとした印象になった時は、少しパンチを効かせましょう。
・・・と1~2滴ずつ、アロマを足していく。
そして、『私のための、私だけの香り』ができあがった。
オリジナルアロマの感想
私が作ってもらった香りは、どことなく優雅で優しい印象だが、爽やかさもあり、深く吸い込むと森の中の湖畔に佇んでいるような気分になる。
とても落ち着く。
ほっとする。
自分の本質に還るような・・・。
嗅覚は脳に直結している唯一の感覚。
思考や理性を超えた、本能に近いなにかが揺さぶられるのかもしれない。
手首にロールオンしておくと、1日のうちに何度もクンクンしてはにやける、さらに怪しい人になってしまう。
香りを言葉で表現するのは難しいが、私のためのアロマは、私を確実にいい気持ちにさせてくれる。
ためしに他の参加者の香りを嗅がせてもらった。
きりっとした草原を思わせる香りは、ハンサムウーマンの彼女にぴったりだし、芳醇でエキゾチックな香りはベリーダンスが好きな彼女によく似合う。
その人を彷彿とさせる香り・・・って、あるんだなぁ。
自分の香りを身に付けた時、理屈ではない何かが直接細胞に働きかけ、しあわせな気分にさせてくれるのだと思う。
ちまたでアロマが流行っているのは、こういうことだったのかと、遅まきながら納得した次第。
大敬さんは直感がとても鋭い。
人並み以上の嗅覚はもちろんのこと、相手にしっくりくる香りを選ぶ能力は、無意識のうちにリーディングしているからかもしれない。
こういうのを天賦の才と言うのだろうか。
自分にあたわった才能を開花させ、それで他人を笑顔にする生き方ができる人は、しあわせだなぁ。
あなたのための、あなただけの香り、欲しくない?
船戸大敬さんの調香にご興味のある方は、船戸クリニック統合医療センターまで。
お問い合わせ:0584ー35ー3511