映画【インサイド・ヘッド2】 私が私であるために

インサイド・ヘッドは、擬人化した感情たちが、その人の反応や行動に影響を及ぼすプロセスを描いている。

まさに頭の中の右往左往。

前作では、主人公のライリーは11歳。生まれ育ったミネソタを離れ、引っ越した先での新生活になじめず、家出を企てる。

頭の中の5つの感情たち、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカが、その都度、それぞれの特性を発揮して、ライリーの反応を決めていく。

結局、自尊感情の根幹となる愛された思い出たちが、ライリーの暴走を止め、両親に本音を打ち明けるに至る。

本作は、その続編で、あれから2年後のライリーが登場する。

【インサイド・ヘッド2】のあらすじ

13歳に成長したライリーは、少しお姉さんになった。

歯の矯正を始め(アメリカでは永久歯に生え変わった段階で、歯列矯正を始める子が多い)、成績もよく、仲良しの友達もいて、アイスホッケーに打ち込み、両親ともむつまじく暮らしている。

頭の中の5つの感情たちも、前途洋々で仕事に勤しむ。

だが感情のコントロールパネルには、見慣れないスイッチがあった。

それは、思春期のスタートボタン。

ある日、そのスイッチが入り、新たな感情たちが登場する。

それがシンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシ。

新しい感情たちは、ライリーを幸せにするために頑張ってきたヨロコビたちを、追い出してしまう。

そしてこれまで育んできた自己肯定感を、丸ごと違うものに置き換えようとする。

ライリーは「アイスホッケーが上手くなれば、自分の居場所ができる」と思い込み、友達に背を向け、先輩たちに迎合し、どんどん自分を偽っていく。

インサイド・ヘッド2
(C)2024 Disney/Pixar

胸に刺さるセリフの数々

ライリーのビリーフが、深層心理とコントロールセンターをつなぐ糸から響いてくる。

私はいい人(多分good personだと思う)、私は優しい、私はできる、友達が大好き、ホッケーは楽しい等々。

記憶の海から立ち上る糸たちが、とてもとても美しい。

そして響いてくる言葉たちが、とてもとても優しい。

そこに禍々しい赤い糸が何本も追加されていくのだが、元々の光景が美しいだけに、やるせなくなる。

コントロールルームから追放されたヨロコビが、ぽつんとぶつやく。

大人になると、ヨロコビは失われてしまうの?

確かに私たち大人は、子どもの頃ほど単純に喜ばなくなった。

いや、喜べなくなったというべきか。

成長とともに、喜びのハードルはぐっと高くなってしまったようだ。

でも…、喜びって大切だよね。

なにかをする動機が、義務よりも喜びだったら、私たちはもっと生きることを楽しめるような気がする。

そして、いつも元気で前向きなヨロコビが、初めて顔をゆがめて叫ぶシーンがある。

常にポジティブであり続けることが、どれほど難しいか、知ってる?

ほんとにその通り。ポジティブだけの人間なんて、存在しない。

ポジティブとネガティブはセットだから。

だけど私たちは、常にポジティブを求められる。

ネガティブは克服すべきものとして、表現することすら憚られる。

じゃあ、あるのにないとされたネガティブさは、一体どうしたらいいのだろう。

最後の15分で泣いた

思春期のモヤモヤなんて、とっくに忘れた。

あの頃の悩みなんて、その後の人生の荒波に比べたら、どうってことなかった。

だけど大人の私が、涙を止められなかった。

これから鑑賞する方もいらっしゃるから、詳しくは書かないけれど、よいとされる側面だけではなく、嫌なことも、忘れてしまいたいことも、恥ずかしかったことも、辛かったことも、悔しかったことも、みんな、みんな、その人を形作る、大切な要素のひとつなのだ。

そんな経験があったから、貴方は貴方でありうる。

最初、ヨロコビたちは役に立たない思い出を、シューターで捨てていた。

だが最後には、その捨てたはずの思い出たちに助けられる。実に暗示的。

そして悲喜こもごもの思い出同様、湧き上がる感情たちもみんな、大切な感情なのだ。

ネガティブだからといって、ないものにしてしまってはいけない。

感じることを恥じてはいけない。

だってネガティブとポジティブ、そのいずれもが私であり、貴方なのだから。

反目しあっていた感情たちが、ひとつにまとまる…。

ひとつの目的のために。

かけがえのないライリーのしあわせのために。

こんなに美しく描かれた”統合”って、ほかにあっただろうか。

絶対、ハンカチを持っていってね。

インサイド・ヘッド2
(C)2024 Disney/Pixar

世界中で大ヒット

日本での公開前に、世界ではすでに大ヒットを飛ばしている。

全アニメーション映画史上、世界歴代No.1のオープニング記録に、公開19日目で前作の2倍の動員数。

アナ雪も超えるのではと言われている。

天下のディズニーの宣伝力もあるのだろうけれど、やっぱりいい作品じゃなければ、人は集まらない。

エンターテインメントでありながら、感情のしくみを正確に表現していて、子どもにも大人にも響いている。

こういう知識を楽しみながら得た子どもは、思春期を迎えてモヤモヤしたり、イライラしたり、感情が爆発したりしても、一歩引いて自分の反応を捉えることができるかもしれない。

もちろん大人だって、怒りが湧き上がったり、自分はダメだと打ちのめされた時に、感情に飲み込まれずに、嵐が去るのを待てるかもしれない。

書物を読んだり、セミナーで学んだりもいいけれど、映像作品はストレートに入ってくるから、話がはやい。

親子で、夫婦で、友達同士で、(もちろんソロでも)ぜひ観てほしいな。

SEKAI NO OWARI のエンディングもぐっとくる。

(前作のヨロコビの声は、竹内結子さん…)

この記事を書いた人

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
詳しいプロフィールはこちら。