『モテ薬』旺季志ずか著 夢の薬をめぐるミステリー

旺季志ずかさんは脚本家。

ストリベリーナイト、佐賀のがばいばあちゃん、特命係長 只野仁、屋根裏の恋人、カラマーゾフの兄弟など、数々のヒット作を手掛けている。

その志ずかさんが最初に上梓した小説、『臆病な僕でも勇者になれた七つの教え』は、子どもから大人まで、その人の成長段階にあわせて、様々な気づきをもたらす名著だった。

『臆病な~』でハートを撃ち抜かれて以来、志ずかさんの大ファンになった。

最新作『モテ薬』は、9月23日に発売されたばかり。

きっと映像化されるだろう。

『臆病な~』とはガラリと変わったテーマと作風で、新たな志ずかワールドがさく裂する。

『モテ薬』のあらすじ

異性を惹きつける効果がある、未知のフェロモンを産生する細胞が発見された。

メタル・シンデレラ、通称モテ薬を発見したのは水澤鞠華。

30歳そこそこの大変に美しい彼女は、記者会見の席に着物で現れ、世間の話題をさらった。

彼女の論文は、世界的に有名な科学誌にも取り上げられ、指導教授、吉見康二もご満悦の様子。

だが発表と同時に内外の研究者が、メタル・シンデレラの再現を試みるが、誰一人として成功しない。

…どころか、水澤鞠華自身も再現することができない。

モテ薬は、絶対にある!…と断言する水澤や吉見。

捏造じゃないのか?と糾弾し始める世間。

そんな騒ぎの中で、吉見教授が遺体で発見される。

死因は服毒。自殺なのか、他殺なのか、憶測が憶測を呼ぶ。

吉見教授の死の真相は?

メタル・シンデレラは本当にあるのか?

水澤鞠華の周辺にいる人物たちへのインタビューや独白という形で、サスペンスは進行する。

研究

既視感が…

誰でもが、あの事件を思い出すのではないだろうか。

果たしてあの細胞はあったのか、なかったのか。

再現性が証明されなかったからといって、虚偽と言い切ってしまって、本当によかったのか。

研究は長いスパンで見るべきものなのに、わずか半年ほどの間に、よってたかって一人の研究者を葬ってしまった私たち。

将来、あの細胞の存在が証明された時、どんな言い訳ができるのだろう。

かっぽう着姿の彼女を、最初はもてはやしていたのに、手のひらを返したように糾弾した…、あれは何だったのだろう。

主人公が登場しない

面白いのは、中心人物・水澤鞠華自身がずっと登場しないこと。

製薬会社の担当者や、研究助手や、他教室の教授の語りが、少しずつ水澤鞠華の人となりを露わにし、事件の真相に迫っていく。

もちろんそこには語り手のフィルターや願望が混ざるので、人物像にはズレが生じる。

最初は非の打ちどころのない才色兼備、地上に舞い降りた天使のごときイメージが、徐々に人間臭さを帯びてくる。

最後の最後に本人が登場するが、世間が彼女に抱いたイメージとのギャップが、何とも言えない。

でもきっとこっちが本当の姿なのだろう。

人は、見たいように見る。

誰かを偶像化してしまうのなんて、実はとても簡単なことなのだ。

女性であるがゆえに

男女平等が謳われて久しいが、未だ旧態依然とした大学の研究室。

女性であるというだけで、様々なハードルを課せられる。

そんな中で、女性研究者が研究を極めるには、やはり”女”を武器にするしかないのか。

研究そのもので勝負することは不可能なのか。

純粋な研究だけではなく、予算獲得にまでエネルギーを使わなければいけない、日本の研究者の現状とあわせ、なぜ優秀な研究者ほど国外に研究の場を求めるのか、そんな閉じた社会の闇にも、さりげなくメスを入れる。

薬が認可される過程は、なかなかに複雑で分かりにくい。

難しい単語や説明も出てくるが、そこで躓かずにクリアした後には、極上のミステリーが待っている。

読書

 

この記事を書いた人

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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