人々が行きかう金沢駅。
新幹線開業以来、利用者数が爆発的に増えている。
都会の人は、金沢にある種独特の郷愁のようなものを感じるらしい。
金沢という地名を聞くと、まだ一度も来たことがない人でさえ、いい所ですよね…とうっとりする。
城下町、新鮮な魚介、工芸、伝統、加賀美人、どんなイメージを抱くかは人それぞれだが、なにかしらの憧れのようなものを持って、たくさんの観光客が、今日も金沢駅に降り立つ。
たいていは1泊か2泊の短い滞在だけれど、旅の余韻を楽しむかのように、人々は駅で土産物エリアをそぞろ歩く。
なにか…想い出になる物があればいいな。
大切なあの人に、なにか気に入ってもらえる物があればいいな。
そんな想いが交差する一画に、私は居る。
名産の菓子や弁当や器たちほどには、目を留めてはもらえないけれど。
お土産にするには、ちょっと値もはるので、誰かが私を買い求めてくれるとは、あまり期待していないけれど。
でも時々、ふと立ち止まって、手に取ってくれる人がいると、ドキンとする。
貴方はどこから来た人?
私を気に入ってくれたの?
一緒に連れていってくれる?
「これ、きれいでしょ?」
私をそっと持ち上げたその人は、慈しむような目で私を見る。
そっと優しく触れてくれる。
連れの人が手元をのぞきこむ。
「先週来た時も、いいなぁ…と思って見ていたのよ。」
先週?…よく来るの?観光客ではないの?
毎朝私の埃を払ってくれる店員さんが、近づいてきた。
「赤いガラスなんですよ。金箔が練りこんであります。」
「職人さんの手作りですか?」
「1点物というわけではありませんが、大量生産の品ではありません。」
そう、私は工場で生まれたのではなく、小さな工房で職人さんが作ってくれた。
手作りではあるが、同じデザインの物を幾つも幾つも作るので、丁寧な作業ではあるが、作品…と呼ぶほどの思い入れはないと思う。
きれいなパーツのひとつ。
それをまた違う人が、ほかのビーズと一緒にネックレスに組み上げた。
そして金箔専門の土産物ブースに並べられた。
お土産物としてはあまりポピュラーな品ではないのか、けっこう長い時間、ここにいる。
たくさんの人が忙しなく行きかうのを見ているのも、そろそろ飽きてきちゃった…。
ねえ、貴女、よかったら私を連れ出してくれない?
私も外の世界を見てみたいわ。
…なんて物語があったかどうかは分かりませんが、私の手元にやってきた一品です。
最近、必要なモノはあっても、欲しいモノにはなかなか巡り会えません。
一目惚れした赤いガラスのネックレス。
なくても全然困らない、でも久しぶりに欲しい!と感じたモノです。
金箔のさくださんで購入しました。