なんとも不思議な空間だと思う。
レストランの2階、なんの変哲もない四角い部屋。
昼間は陽光に溢れ、夜は間接照明でほの暗い、二つの顔を持つ。
1ヶ月に1度だけ出現する、なんだか現実世界と切り離されたような場。
なにをしているのかと問われれば、読書会と答えるしかない。
でも本をシェアする以上のプラスアルファがそこにはある。
この読書会、正式名称は【印象美な大人の表現力教室】という。
主催者は、小西敦子さん。
”印象美”は小西さんのトレードマーク。
確か今年で4年目じゃなかったかな。
最初は好きな本を持ち寄って、心惹かれる表現をシェアする会だった・・・はず。
だが回を重ねるうちに段々と進化して、気持ちや想いや人生までもシェアする場となった。
メンバーは毎年入れ替わるが、常連もいる。
卒業する人もいれば、一度離れてまた戻って来る人もいる。
選ぶ本はジャンルを問わない。
プレゼン方法もどうぞお好きに・・・と、一切が自由。
前半は近況のシェア。
最近の出来事、想ったこと、疑問だったこと、感動したこと、チャレンジしていることなどを、ひとりずつ話す。
おそらくこの場に集うということ自体、潜在意識でつながっている証なのだろう。
ひとりに起こった出来事がみんなに響いて、どんどん広がっていく。
私は最近、母と一緒に実家を片づけていることを話した。
すると、同じような必要性を感じている人が次々に、自分の場合を語りだす。
やがてテーマは片づけのことから、母と娘というこの上なく近しく、またややこしい関係性に移行。
自分を産み育ててくれた人。
幼い頃は、世界の全てだった人。
だが娘は成長するに従って、その聖母も1人の弱い不完全な人間であることに気づく。
聖母 VS ただの人
この葛藤、誰もが経験することだろう。
思春期、反抗期を通り抜け、娘が大人になると・・・。
本来ならば、大人と大人、1人の人と人という関係に成熟していくものなのだろうけれど、こと母娘には期待や依存や拗ねなどがまとわりついて、なかなかすんなりとはいかない。
そこで生まれてきたのが、古くは母原病やアダルトチルドレン、最近では毒親という言葉なのだろう。
多かれ少なかれ、ほとんどの人が経験することのようだ。
でも親が高齢になると、その関係性にも変化が現れる。
つまり立場が逆転して、娘側がまるで子どもに接するように優しくなってくる・・・なんてお話に花が咲いた。
面白いよね。
友達同士でも、なかなかそんな話題にはならないのに。
顔と名前くらいしか知らない、1ヶ月に2時間限定という間柄だからこそ、一気にそんな話題に踏み込めるのかもしれない。
そして後半は、それぞれが持ち寄った本のプレゼン。
あらすじを語る人もいれば、本の表紙だけを見せて自分の想いを語る人もいれば、感動した部分を朗読する人もいる。
自分の好みだけで選択すれば、絶対手に取らないような本に出逢えるのも、この会の醍醐味だ。
最近では、メンバー間で本の貸し借りが自然発生していて、それもまたいい。
私は「言の葉の庭」を貸してもらった。
著者は新海誠。
映画【君の名は】の監督さんだ。
言の葉の庭はすでにアニメで観ているが、「原作を読むとさらに深まるよ」と貸主。
確かにそうに違いない!
毎回、レストランNさんのスイーツが食べられるのも、楽しみのひとつ。
これは○○栗のモンブラン。
○○の所には産地が入るのだと思うが、全員が聞き逃し、そして全員が誰かが聞いているからいいだろうと思っていたので、結局分からないという落ち。😅
甘みを抑えたクリームと焼きそば部分(この表現!)とトップの大きな栗が、えもいわれぬハーモニーを醸し出していて、全身を味覚にしてうっとり味わってしまう。
大人の表現力教室に相応しい、大人のデザートだった。
部屋には毎回、花が飾られている。
これは主催者の心づくし。
マンゴーリーバーという名の山吹色のバラ、私たちの話をずっと聞いていて、なにを思ったかな。
淑女たちの夜はたんたんと更けていく。