【すぐ死ぬんだから】内館牧子著 脚本家の小説はセリフが面白い

高齢者の運動施設に通う母が、そこで本を貸してもらった。

あまりに面白くて、寝る間も惜しんで一気に読んだ…とあらすじを話してくれた。

あれ?この話、どっかで聞いたことあるような…。

家に帰って本棚を漁ると、あった、同じ本!

内館牧子さんの【すぐ死ぬんだから】。

内館牧子さんは脚本家であり、小説家であり、横綱審議委員でもある。

代表作は…、なんだろう、いっぱいありすぎて、絞れない!

私が特に好きだったのは、NHK朝ドラの「ひらり」や「想い出にかわるまで」「クリスマスイブ」とかかなぁ。(ふ、古い…(^^ゞ)

最近は小説やエッセイに軸足を移しているようだが、さすが脚本家だけあって、内館さんの小説はセリフや設定が面白い。

【すぐ死ぬんだから】のストーリー

忍(おし)ハナ、78歳。

後期高齢者だからって、なめるなよ。

私は絶対に貧乏くさい年寄りにはならない!…とハナは背筋を伸ばす。

いつも身ぎれいに装って、肩で風切って銀座を歩く。

雑誌の読者グラビアにスカウトされるくらい、若々しい。

同年代の女性たちは「若作りしちゃって…」と陰口をたたくが、逆にハナはそれが誇らしい。

いつまでもはつらつとしている自分が妬ましいのだ…と分かっているから。

ハナの夫、岩造は、代々続く酒屋の店主で、趣味は折り紙という地味な男。

店はすでに長男に譲り、ハナと二人、マンションで暮らしている。

ハナが女房でよかった…と臆面もなく口にする岩造。

大恋愛の末に結ばれたわけではないが、まあまあの人生だったとハナは思っている。

ところが!

岩造が急逝し、悲しみに暮れる間もなく、大変な事実が発覚する。

なんと岩造には、もうひとつ家庭があったのだ。

相手の女は自分より10歳も年下の医師。

その息子には岩太郎、…いわば長男につけるべき名がついている。

条件的にはすべて自分が負けている。

憎っくき岩造!

だがすでに死んでしまっているので、ヤツを問い詰めることも、ののしることも、叩き出すこともできない。

収まりのつかないハナは、復讐しようと心に決める。

とにかくセリフが面白い

ハナの歯に衣着せぬ物言いが痛快。

夫の死でいったんはがっくりきて、「いつ死んでもいい」とか言い出すが、別の家庭の存在を知り、がぜん生気を取り戻し、闘志に燃え盛る。

思ったことははっきり言う。

自分の気持ちに正直。

すぐ行動に移す。

そのスピーディな展開から目が離せない。

毒舌ともいえるハナのセリフは、私たちが普段飲み込んでいることを、ズバッと言ってくれているようで、けっこうスカッとする。

私たちだって言いたいことは山ほどあるが、大人だから、職場だから、常識だから…と抑え込む。

でもそのモヤモヤ、体内に残るとよどんで腐る。

そんな腐敗臭をハナが一気に蹴散らしてくれるようで、小気味いいのだ。

復讐の果てに到達するのは…

ハナが相手の女性と息子をネチネチいじめている頃、同級生が他界した。

つい先日、一緒に出掛け「今度、ごはんしようね」と別れたばかりなのに。

遅かれ早かれみんな死ぬ。

人の人生とはなんと短く、なんと先の分からないものであろうか。

そんな中で、何が起ころうと(第二の家庭が発覚しようと)、たいしたことではないのかもしれない。

ハナの怒りや復讐心は、悟りや仏のような気持にだんだんと置き換わっていく。

いくら若々しく装っていても、心身ともに衰えていくことは止められない。

でもそれは老衰ではなく、衰退なのだとハナは考える。

衰退していくけれど、まだ死んではいない。

残された時間は少ないかもしれないが、今、自分に何ができるのか。

不出来な嫁を助けるという形をとりながら、ハナは自分の存在意義も見出していく。

Chikakoの感想

私が読むのと、80代の母が読むのとでは、感じることも、響くところも違うのだろうと思う。

だが私も老いとは無関係ではない。

仕事柄、高齢者とは日常的に接する。

体力がなくなり、筋力が落ち、動作もゆっくりになる。

関節が痛い、夜眠れない、便秘がち…いろいろな不具合も出てくる。

そういう肉体的な老いには抗えない。

だが自分の衰えを感じた時、それをどうとらえ、どう反応するのか、そこが問われていると思う。

できなくなったことにフォーカスして嘆くのか、まだできることを数えて尊ぶのか。

不機嫌そうなしかめっ面で過ごすのか、朗らかに笑っているのか。

自分のことだけ考えるのか、周囲への気遣いを忘れないのか。

そういう姿を見ながら、いつか行く道なんだ…と感じることが多くなった。

自分が衰退した時、私はハナのように、自分にできることを探せるだろうか。

老い先短い身でも、誰かの役に立ちたいと思えるだろうか。

私は…、愚痴っぽい老人にはなりたくないな。

最後まで広く温かい心で、世界を見ていられる人でありたいな。

そしてその時も、しつこく文章を書いていられたら、きっと幸せに違いない。

おばあちゃんカメラマン

おばあちゃんカメラマンの西本喜美子さん。

自分を題材に、ユニークな写真を撮る。

生涯現役を貫くんだって。かっこいい!

この記事を書いた人

Chikako

Chikako

金沢市在住。バラとコーヒーとコーギーが好き。
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