まじむとは、沖縄の言葉でまごころのことだそう。
まごころという名の、伊波まじむは、那覇生まれの28歳。
地元の通信会社で派遣社員として働いている。
会社での仕事は、実家の豆腐屋を継ぐまでのつなぎだと思っている。
だが社内ベンチャーの告知が、彼女の人生を変えていく。
おばあが教えてくれたラム酒。
遠く南米からやってきたラム酒の原材料は、サトウキビ。
サトウキビがたくさん栽培されている土地にもかかわらず、沖縄産のラム酒はない。
風が渡る島で、風が育てたサトウキビを使ったラム酒を作り、全て沖縄産のモヒートを飲んでみたい。
そんな淡い望みからスタートする、沖縄産アグリコール・ラム酒を造る事業。
ビジネス感覚ゼロ、特別な能力も技術もないまじむは、途方もない夢を実現できるのか。
原田マハさんの小説に登場する主人公は、たいてい女性で、たいてい無理難題に挑戦し、たいてい周囲の人々を巻き込んで、泣いたり笑ったりしながら、一生懸命夢を追う。
その真摯な姿に共感を覚え、ひとり、またひとり…と協力者が現れる。
最初は反対していたおばあが、最大の応援者になり、意地悪だった会社の先輩が、頼もしい営業担当としてまじむの片腕になる。
くじけそうになった時、まじむを励ますのは「風の酒を一緒に飲もう」というおばあの言葉。
最初はライバルだった先輩が、風の酒を口にして、まじむの想いに賛同する。
その他にも、杜氏や新規事業開発部の部長や南大東島の人々や高校の後輩やバーテンダーが、影になり日向になりして、まじむを支えるのだ。
ひとりの想いがこうやって広がっていく。
その過程が、秀逸なエピソードとともに、丁寧につづられている。
誰の人生だって、一筋縄ではいかない。
そう、順風満帆に見えるあの人だって、見えない所で、いろいろあって苦労している。
だけど主人公たちは、その生きざまを通して教えてくれるのだ、「まったく人生、甘くない。だけど、けっこう悪くない。」…と。
この小説にはモデルがいる。
南大東島に本社を置くラム酒製造会社「グレイスラム」の代表取締役社長の金城祐子さんだ。
小説は彼女をモデルにしたフィクションだが、実際に風の酒を造った人が存在する。
彼女が造った沖縄産ラム酒・コルコルは、アマゾンでも購入可能。
飲んでみたい…、風を感じるラム酒。