人をくったタイトル。
普段の私ならおそらく手に取らないが、けっこう疲れていたのかもしれない。
気軽にさらりと読める本が欲しかった。
…で、脳科学のお堅い本と一緒に買ったのが本書。
読み始めて、んんっと思った。
言葉のチョイスや物事の説明がちょっと独特で小気味いい。
ユーモアのセンスも洗練されているというよりは、むしろ泥臭いのに、なんだか波長があう。
読み手が波に乗るということがあるとすれば、まさにそんな感じで、どんどん読みたくなって、夜が更けていくのに、本を閉じるのが惜しくてたまらない。
そう、つまり面白かったのだ。
舞台は吉祥寺にある武蔵野書店。
主人公は谷原京子、28歳。独身、契約社員、薄給。
勤務店の店長は、人を苛立たせることでは右に出る者がない、山本猛。
タイトルのバカすぎる店長とは、この人のことだが、どうしてこんな奴が店長なんだ!…とこっちがイライラするくらい、いろいろずれている。
書店内では様々なトラブルが起こるが、山本店長がいるがために、さらに事態がややこしくなっていく。
こんなブラックな職場で、谷原京子が様々な悪条件を我慢してまで働いているのは、ひとえに本が好きだから。
「辞めてやる!」を呪文のように唱えながら、辞表をバッグに忍ばせながら、それでも今日1日をなんとかやり過ごす日々。
最初はただのドタバタ劇だったが、章が進むにつれて、ひとつの謎が現れる。
覆面作家・大西賢也とはいったい誰なのか。
どうして大西賢也の勝負をかけた次作のモチーフが、この書店なのか。
そしてぼんくら店長は、本当にぼんくらなのか?
もしかしたら、それは仮の姿で、本当はものすごく辣腕なのでは?
さらには、気持ち悪いというこの感情は、まさか恋?
謎が謎を呼ぶ形で、ぐいぐい引き込まれて、辿り着いた先は…!!!!(ネタバレになるから書かないよ)
山本店長の外しっぷりはすごすぎて、もう笑うしかない。
KYを辞書で引いたら、店長の写真が出てくる日も近い?
開店前の一番忙しい時に、ダラダラ朝礼を続けられるのは、さぞストレスがたまることだろう。
その内容がくだらなければ、なおのこと。
傍から見ている分には面白いが、こんな人と一緒に働くのは、苦痛でしかないと思う。
目つぶししたくなるのも、分かるよ、京子さん。
早見和真さんの本は初めて読んだけれど、他の作品も読みたくなった。
来年度の本屋大賞にノミネートされるんじゃないかな。
高尚な文学がお好きな方には向かないが、お笑いやギャグOKな方には新境地の1冊だ。