馴染の美容室に、いつものスタッフがいない…。
あれ、今日はお休みかなと思ったら、昨年いっぱいで辞職したとのこと。
え?私、12月30日にも来たけれど、その時は、何も言ってなかった。
彼が20歳で入職してから7年、ずっと見守ってきたのに。
最初は店の掃除しかさせてもらえなかったのが、シャンプーをまかされ、カラーのアシスタントに入るようになり、一人でカラーを担当し、パーマやカットまでできるようになる過程を、ずっと見守ってきたのに。
余計なお世話かもしれないが、まるでお母さんの心境だった。
控えめだけど、笑顔がよくて、マダムたちとの会話もそつなくこなし、最近は結婚もして、さあ、これから…と思っていたのは、私だけではないはず。
オーナーは、一から育てた人材の辞職にがっかりしながらも、「まあ、男の子ですからね。いつかは…」と言っていた。
ああ、その気持ち、よくわかるよ。
エネルギーを注いで育てた人材に、こともなげに「辞めます」と口にされた時の落胆といったら!
ほんとにガックリくる。
だけどその人の意思を尊重しようと、笑顔で送り出すんだよね。
でも心では泣いている。
私も人材育成にかかわっているので、その気持ち、よ〜〜〜〜くわかる。
彼の場合は、友達と新しく美容院を立ち上げるらしいので、職場が嫌になっての辞職ではない。(…と思う、深くは知らないけれど)
若い人が次への目標を見出したのであれば、むしろ喜ぶべきことなのかもしれない。
ただまだちょっと早いのでは…というのが、周りの冷静な意見だと思う。
彼は外に出て初めて知るだろう、どれだけ自分が守られていたのかを。
運営や経理や人事や在庫管理や対外業務、経営に関わる全てのことをオーナーや店長が背負っていたから、自分が美容業務に専念できていたことを。
だけどそれもいい。
想定外のことが、まだ修行の範囲で済まされる若いうちに、いろいろ経験してみるのは、いいことかもしれない。
頑張れよ、若者。
挨拶なしは寂しかったけどね。
そして辛すぎて美容師を辞めちゃうんじゃないか…と、密かに心配しているオーナーの気持ちにも、いつか気づいてね。
彼はオーナーに相談せず、一人で考えて、一人で決めたそうだ。
そして結論だけを告げた。
ある意味、すごく自立していて、潔いように感じる。
だけど、私はちょっと引っかかる。
自分も同じことをしてきた過去があるから…。
断捨離トレーナーを辞める時、私は師匠に相談しなかった。
自分の中で散々葛藤して、自分で結論を出した。
…それは、断捨離修行の中で、小さなことから大きなことまで、常に選択決断を迫られ、自分軸で考えることを求められていたから。
こんな重要なことは、人に頼らず、しっかり自分で考えて、結論を出さなければならない…と思い込んでいた。
決心するまでの心の葛藤は、それはもう大変なもので、2年くらい、悶々としていた。
断捨離トレーナーとして得られる計り知れないメリットと、トレーナーである自分に抱いた違和感が、常にせめぎあう。
自分を騙してでも、しがみ付きたい誘惑は大きかった。
そんな自分が、人に手放すことを説いていいのか?
辛かった。苦しかった。眠れなかった。
あの時、私はなぜ、師匠に相談しなかったのだろう…。
あんなにしんどかったのに、どうして助けを求めなかったのだろう。
それはしてはいけないこと…と、どこかで思っていた。
そんな資格も立場もないと。
「悩んでるんです」の一言が、甘えに思えて、どうしても言えなかった。
なぜかな…。
そしていきなり結論を告げられた師匠も、びっくりしたよね、きっと。
相談したとしても、結論は変わらなかっただろう。
でも、もう少し腹を割って話せばよかった…と、今は思っている。
だから美容師の彼の去り方に、チクッとしたんだな…。