息子が春休みを利用して、友人とハワイ旅行に行くことになった。
パンケーキにステーキにガーリックシュリンプ、あれもこれも食べまくる!…とウキウキしていたが、出発前になって、大問題が発生した。
彼は日本とアメリカ両方の国籍を持っていて、日本のパスポートだけでは、アメリカに入国できないのだ。
二重国籍を有する理由
息子は、ミネソタのロチェスターという町で生まれた。
アメリカは生地主義を取っているので、親の国籍にかかわらず、アメリカ国内で生まれた子どもは、みんなアメリカ国籍を与えられる。
そして日本国籍も必要な場合は、生後半年以内に大使館か領事館に直接出向いて、出生届を提出しなければならない。
当時、一番近い領事館はシカゴにあった。
飛行機で行くこともできるが、乗り換えもあり、大きな空港に乳児を連れていくのは気が進まなかった。
泣いてもぐずっても、すぐに休憩できるから…と、車でシカゴに向かった。
片道8時間くらいの長い旅だった。
こんな小さな子に長時間移動をさせなくても、親が書類を提出しに行くだけではだめなのかと問い合わせたが、絶対本人が来るように…と言われた。
日本国籍の不正取得があるからなのだろう。
だが、やっと辿りついた領事館では、ちらっと息子の顔を見ただけ。
たったこれだけのために、ここまで来させたの?…とお役所仕事にムカついたが、息子はこの時点で、二つの国籍を有することになった。
日本人として成長
4歳の時に帰国して、その後、ずっと日本で成長し、日本の教育を受けた。
プレスクールで英語のシャワーを浴びたのに、その記憶はないらしく、英語はそれなりだ。
日本は二重国籍を認めていないので、22歳になったら、いずれかの国籍を選ばなければならないのだが、大学入学時も特に不都合はなく、両国政府から通達が来るでもなく、まあ、このままでもいいのかな…とあまり気にしていなかった。
彼は見かけも中身も日本人そのもの。
これからも日本人として生きていく(…と思うけど)。
アメリカのパスポートがなければ、入国できない
日本人なのだから、日本のパスポートがあればいいのだろう…と、今回の旅行のために、日本のパスポートを取得した。
9・11以降、テロ対策の一環として、アメリカに入国する際には、ESTAとう簡易ビザが必要になった。
これはネットで簡単に申請できるし、料金も14ドルしかかからない、お手軽なビザだ。
早目に取っておいたほうがいいよ…という私のアドバイスを、大丈夫大丈夫…と軽く受け流していた息子。
出発の6日前になって、初めてESTA申請に着手した。
そこで発覚したのだ。
アメリカ国籍を持つ人は、ESTAを申請してはいけないことが。
日本人はESTAがなければ、アメリカに入れない。
息子は日本人として、日本のパスポートで日本を出国できるが、日本人としてアメリカに入国できない。(ESTAがないから)
彼の場合、日本人として日本を出国し、アメリカ人としてハワイに入り、またアメリカ人としてハワイを出て、日本人として帰国する、つまり日本とアメリカ両方のパスポートが必要なのだ。
アメリカのパスポート取得には2~3週間かかる
パソコン画面の前で、二人して青ざめた。
ど、どうすればいいの?
旅行は6日後に迫っている。
そこから怒涛の検索。
二重国籍について、調べまくった。
ネット上には、アメリカのシステムと日本の戸籍システムは直接繋がっていないから、日本のパスポートで日本人として、出入国してもばれないとか、申請画面の『日本のほかに国籍がありますか』の問いに『NO』と書いて、ESTAをゲットしちゃえ…とか、過激なことが書いてある。
もしかしたら、ばれないのかもしれない。
…だけど、だけど、そんな賭けはリスクが高すぎる。
ハワイの入管で、入国を拒否されたら?
強制送還されたら?
留置されたら?
彼には釈明したり交渉したりする英語力はない。
それにもし息子が留め置かれたら、一緒に行く友人たちにも迷惑がかかる。
ここは正攻法でいくしかない。
つまりアメリカのパスポートを取得するか、アメリカ国籍を返上するか。
だが、アメリカパスポートは、申請後、2~3週間かかるし、国籍選択の場合は、日本とアメリカ、両方への申請が必要となる。
しかもアメリカの国籍を返上する場合、領事館で面接があり、その後、半年ほどかかるとある。
どっちも間に合わない!
藁にもすがる思いで
日本の外務省、法務省、航空会社に何か手がないか問い合わせるも、アメリカのことは、大使館か領事館に聞くしかないと言われる。(みんな親切に応対してくれた)
もちろん、領事館にはいの一番に電話をした。
だが、パスポート関係の問い合わせは、10時から11時までの受付なので、明日、改めて電話してくださいと、にべもない返答。
明日は金曜日で、週末になれば業務はお休み。しかも週明けの火曜日は、建国記念日でまた休み。
ただでさえ煩雑で、融通が利かなくて、時間がかかる手続き。
しかも日本ほど親切じゃない、アメリカのお役所。
…やばい、これは無理かもしれない。
もう直前だけれど、旅行は諦めるしかないのか。
明日、領事館が開くまで、できることはない。
暗澹たる気持ちで、ベッドに入った。
キャンセル料…って、80%くらいかな。
いや、そうじゃない、こんなに楽しみにしている旅行、なんとか行かせてやりたい…。
〈つづく〉