夕方から富山に行く予定があったので、あまり時間がなかった。
来週ならゆっくりできるのに…と思ったが、このところの好天続きで花は待ってはくれない。
駆け足になっちゃうけど、まあ、仕方ないか…と、母をお花見に連れ出した。
私は近所の大学の遊歩道か浅野川を考えていたのだけれど、母は卯辰山に行きたいと譲らない。
そっか、では仰せの通りに。
卯辰山は金沢市の中心近くにある、標高150メートルくらいの丘みたいな山。
江戸時代は金沢城を見下ろす位置にあることから、庶民の立ち入りが禁止されていた。
でも今は、公園があり、相撲場があり、月見台があり、徳田秋声や泉鏡花の碑があり、レストランやコーヒーショップもあり、道路もきれいに整備され、誰でも気軽に遊びにいける。
そして兼六園や金沢城公園と並んで、桜の名所でもある。
400年の森への降り口にある運動場。
桜の下で、幼稚園児が輪になってお弁当を広げていた。
赤や緑の帽子をかぶった小さな頭が、ぴょこぴょこ動いている。
ベンチには老夫婦。
こちらもお弁当を食べていたが、幼稚園児との年齢差は70歳くらい?
老いも若きも同じ空間で桜を愛でる。
なんて平和なんだろう…。
母と私もベンチに座って、桜を見上げた。
空が青い。
「あと何回、こんなきれいな桜を見られるのかしら。」
母の言葉に、そうだねぇとしか応えられない。
残り時間はそんなに多くない。
明日のことは分からないので、それは誰にとっても同じことかも知れないけれど、確率から考えれば…ね。
だから今のこの時間が大切なんだと思う。
杖をついてゆっくりゆっくり歩く母を支えながら、一緒に桜を見上げた今日のこと、ずっと忘れないでいよう。
目に焼き付けた桜の淡いピンクと空のブルーの対比を。
はしゃぐ園児に目を細めながら、孫たちにもあんな頃があったねぇ…と言った母の声を。
桜がはらはら降り注ぐ中、生まれたばかりの貴女を抱いて横浜の家に帰ったのよ…と、私の記憶にはない母の思い出を。
風に吹かれながら一緒に桜を眺めていると、突然、コーヒーが飲みたいと言いだした。
え?近くにコンビニもないし…と逡巡していたら、山の中腹にある喫茶店へ誘導された。
どうもここはお気に入りの店らしく、卯辰山じゃなきゃダメ!と言い張った理由は、多分これ。
いつも自分の想いはきっちり回収する母であった。😅
実家のしだれ桜も満開。
短時間ではあったけれど、いっぱい桜を見て、美味しいコーヒーも飲んで、母娘二人、思い出をまたひとつ増やせた。