こういうタイトルには、無意識のうちにアンテナが反応する。
昔、お片づけの仕事をしていたから、この感覚はもう体に染みついちゃっているんだろうなぁ。
おまけに垣谷美雨さんの本とくれば、面白くないわけがない。
【あなたの人生、片づけます】のストーリー
主人公は片づけ屋の大庭十萬里。
だが十萬里は実際に片づけはしない。
依頼に応じて、クライアントの家を訪問し、家が荒れている原因をあぶり出し、片づけの指導をするのだ。
本書には4つのエピソードが収められている。
社内不倫に疲れた30代のOL、妻に先立たれた木魚作りの職人、子どもに見捨てられた資産家の老女、家中ぐちゃぐちゃなのに、一部屋だけはピカピカにしている主婦。
共通しているのは、みんな部屋が汚いこと。
「部屋を片付けられない人は、心に問題がある。」
最初の訪問で、十萬里はそれぞれの家の状態をチェックして診断する。
重症と判断されれば、2週間に1度の訪問が3ヶ月続き、半年後にまたチェックがある。
その依頼は姑からだった。
息子一家の自宅の惨状を見るに見かねて、申し込んできた。
十萬里がくだんのお宅を訪ねてみると、出迎えたのは魂が抜けたような表情の嫁、池田麻実子。
勝手に送り込まれた片づけ屋に抵抗するでもなく、すんなりと部屋に招き入れる。
麻実子の自宅は都内の一等地にある国家公務員の宿舎で、最新設備を備えた超豪華版。
恵まれた環境にありながら、せっかくの家は玄関ですらも汚く、ゴミと埃で溢れていた。
キッチンもリビングも寝室も子ども部屋も、どこもかしこも散らかっている。
それもそのはず、専業主婦の麻実子は家事をしないのだ。
池田家には、高校2年と中学2年の娘がいる。
下の娘の菜々美は、茶髪に濃いアイライン、バサバサ音がしそうなつけまつ毛。
まだ中2の娘が無断外泊しても、麻実子は気にも留めない。
ひょんなことから、十萬里は菜々美と仲良くなり、悪ぶっている彼女が実は寂しさに耐えていることに気づく。
勉強も遅れていて、このままでは高校に行けないかも…と十萬里に言われ、ほろりと涙を流す菜々美。
はすっぱな口をきいても、彼女はまだ子どもなのだ。
この家庭を立て直すキーパーソンは、やはり母親の麻実子。
でもどうやって?
池田家には開かずの間がある。
麻実子以外、誰も入れないその部屋は、バタバタの池田家の中にあって、唯一片づいて、掃除の行き届いた部屋だ。
開かずの間の秘密、それは…。
麻実子の心の傷に寄り添い、生きる希望を再び取り戻させるために、片づけ屋・十萬里が一肌脱ぐ。
Chikakoの感想
垣谷美雨さんの書くお話は、どれもリアリティがあって好き。
現代社会で女性の置かれた状況を見事に切り取る。
シチュエーションは違えど、どの作品も女性の生き方や在り方を追求しているように思う。
女性というだけで、いろいろな縛りがあった時代は終わった。
さあ、新しい時代、私たちはどんな生き方をしようか?
人生の諸問題に、どんな風に立ち向かっていこうか?
自分の気持ちに正直に生きるには、どんなハードルを越えればいいのか?
新しいように見えて、実は女性たちが大昔からずっと抱えてきた”自由”への憧れ。
憧れを憧れのまま終わらせず、その手につかみ取るために、垣谷氏が描く女性たちは行動を起こす。
その過程や心の動きや周囲の反応が、ユーモアたっぷりに描きだされる。
八方塞がりでも、どこかに希望がある。
そうそうそう!と首がもげそうになるほど共感できる。
変化を巻き起こしていく女性たちが、たくましくて格好いい。
だから読後感がいいんだね。
部屋の状態は、心の状態を表す…というのは、散々実例を見てきたので、よく知っている。
部屋が先か心が先か、鶏と卵のようでもあるけれど、どちらかに手を付ければ、もう片方も自ずと整ってくる。
まあ、目に見える分だけ、部屋から片づける方がやりやすいとは思うけれど。
カリスマでもなんでもない、普通のおばちゃんっぽい十萬里。
だからこそ、普通の人の苦しみや悩みに気づき、さあ、ここから脱出しよう…と手を差し出すことができるのだろう。
こんな人が片づけ指南に来てくれたら、なんとも心強いね。